その159

キルトログ、Leeshaに呼び出される

 さて、私は今日も意気揚々と外へ出かけ、タロンギ大峡谷までたどり着いた。同地は相変わらず憎らしいほどの快晴である。

 しかしこの近辺は本当に人が少なくなった。私が戦士の修行をしている頃も、ブブリム半島よりはバルクルム砂丘の方が確かに盛況であったが、マウラで求人に困るほどではなかった。現在ではこの事態を憂いないといけない。白魔道士が少ないのはもちろんだが、戦士をはじめとする各種前衛職すら足りない。これは何も大陸人口の偏りだけではない。16レベル前後の冒険者の数が昔よりずっと少なくなっているのである。

 原因は冒険者全体の平均レベルが上がったせいだろう。例えば16レベルから17レベルになるよりは、47レベルから48レベルになる方がずっと時間がかかる。従って人口の集中は高レベル帯に徐々にシフトしていく。冒険者の多くは、複数のジョブを鍛えることに精を出すものだが、もしそういう傾向がなければ、今ごろ間違いなく砂丘にも閑古鳥が鳴いていたことだろう。


 どうせ誘われる見込みは薄いので、待つ間に少しでも鍛錬しておくことにした。弱っちいハチとか根っ子相手ではたいした訓練にならないが、雨垂れも石に穴を穿つし、塵も積もれば山となる。私は無事に17レベルへと上がった。その直後にマウラから勧誘があった。Leeshaとよく似た名前の人物で、一瞬私は勘違いした。彼女はよくこうやって遠方から通信を寄越すからだ。私はパーティに加わって、小一時間ダルメルやゴブリンなどを相手に戦ったのだが、今度は本当にLeeshaから通信が入って、話したいことがあるから時間を作ってくれ、と言う。さてさて用件とはいったい何であろうか。


 狩りののち私はLeeshaに連絡を入れてタロンギ大峡谷へ引き返した。彼女はサンドリアにいるようだった。最も手早く会える場所はどこであろう、と思って、私はメアの岩――例の奇岩のところへやって来た。ここにはテレポートの力場がある。テレポメアという魔法があれば飛んでこられる筈である。だが彼女はすぐにはやって来なかった。Leeshaは17レベルの忍者であったが、ジョブを白魔道士に変えたとしても、どうやらこの魔法を使えるレベルにまでは達していないようだった。おまけに冒険者の余業である「運搬屋」、俗に言うタクシーも見つからないらしい。そこで飛空艇を使って、一度ジュノにのぼろうとしたが、こちらの便にも乗り遅れてしまったらしく、何やらばたばたと時間だけが過ぎていった。

メアの台座

 ウィンダスへ戻っておこうか、と私はLeeshaに提案したが、構わないと彼女が言うので、おとなしく台座の脇で待っていることにした。彼女はジュノ行きの次の便を待っている。おそらくジュノに着いたら、タクシーを頼むか、チョコボに乗るかしてここへ到着するだろう。だとしたら不用意に動き回らない方がよいかもしれない。

 ところで、三奇岩はテレポートの終着点だけあって、様々な人々がどこからともなく現れる。最も盛況なのはラテーヌにあるホラの岩だが、メアの岩とてその数は無視できない。彼らの大半が台座を下りてすぐのところにある、仮設のチョコボ厩舎に立ち寄り、鳥の背にまたがって駆けていくのだ。なるほど各岩でのレンタル料金が高騰するのも頷ける。

 台座にテレポートして来る旅行者たちの一人に偶然にもLibrossがいた。私はLeeshaを待っているのだと答えた。彼女の話が内密なものかもしれないので、あまりぺらぺらと事情を話すべきではないと思ったが、テレポートで彼女を連れて来ようか、などとLibrossが何かと気を使ってくれるので、私は彼女と話をするためにここにいるのだ、ということを伝えた(時遅くLeeshaはそのとき既に飛空艇でジュノへ向かっていた)。

 さて疑問に立ち返ろう。内密の話とは何であろう。直々に会って話すというくらいだから軽々しい内容ではあるまい。これはLibrossも同意したが、「話がある」などという時には、得てして楽しい話題ではないものだ。彼は我々に遠慮し、すぐに立ち去るべきかどうか思案していたが、まあ挨拶くらいでもしておかれては、と私が提案し、彼をおしとどめた。待つ間に、彼は近頃はじめたという錬金術の話をしてくれた。

 錬金術とはもともと元素の組み合わせを変動させて、ある物質を別の物質に変えてしまおう、という立派な科学である。金というのがクローズアップされているのは、「元素変換技術が確立されれば金も自由に生成できる」とパトロン募集の売り文句に使われたからだ。錬金術は成功はしなかったが、その成果は現代化学の大きな基盤となった。だが実際には、金銭目的の詐欺師・山師が頻出したため、非常にうさんくさい印象を残す。ヴァナ・ディールの錬金術もどちらかといえばこの類のようだ。怪しい材料をかき混ぜて秘薬を作る、といったような技術で、ダルメルの唾液などが溶解の媒体として使われるらしい。ちなみにこの唾液というのが――Librossの言によれば――もの凄く臭いようなのだが。

 我々がこんなに長く話していたのは、Leeshaの到着が遅れたせいである。彼女はジュノに着くなり今度はウィンダス行きの飛空艇に乗ったらしい。我々は肩をすくめた。そうとわかっていたならモグハウスへ引き返して待っていたものを。


 Leeshaがようやく到着した。Librossはインビジという魔法で姿を消しておき(本当に透明でまったく見えなくなる!)突然出現して彼女を驚かせた。Leeshaもお返しに、忍術で透明になってみせた。なるほど忍者というのはそういうことも出来るらしい。

 Librossが去ってから、私はLeeshaの言葉を戦々恐々として待った。
「あのですねー」
 彼女はそこで言葉を切った。私はやきもきした。そのとき私は、ひっそりと転生の旅に出、この世界を去ったChyrisalisのことを考えていた。おわかり頂けると思うが、内密の話などというとどうしてもそういうことしか思いつかなかったのだ。

 しかしLeeshaの発言は意外であった。おそらく地上の誰も次の言葉を予想することはできなかったろう。

「ヤグードのくちばしのことなんですがー」


 Leeshaの話というのは、私が先日まとめた獣人のレポートについてだった。外見的特徴として、ヤグードのくちばしの色の違いを示唆しておいたのだが、あれは生物的なものではなく、赤い方は祭祀用の仮面ではないかというのだ。失礼ながら私は声を上げて笑い出してしまった。

 その成果は既に文章に反映させてある(獣人研究「ヤグード」を参照)。非常に興味深い考察だし、説得力を充分持っていると思ったからだ。台座の上で待った甲斐はあった。ヴァナ・ディールに関する仮説を私は歓迎している。ただしどうせなら――これは皆さんにもお伝えしておくが――あまり私の不安を募らせない範囲でどうかお願いしたいと思う。


(030823)
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