その170

キルトログ、口の院院長を追う

 守護戦士、それも二人を、一撃のもとに倒すことが出来る人物。ウィンダスの要人の中には、相応の実力者は何人かいるだろう。だがそれが出来るということと、わざわざ実行にうつすということは別だ。後者に当てはまる要注意人物はおそらくたった一人……。

「アジド・マルジド!!」

 兎のように小さな人影が、稲妻のごとく走り抜けて、セミ・ラフィーナの前で立ち止まった。口の院院長の離れ業を目の当たりにしても、彼女は動じず、大声で彼を一喝した。二人の守護戦士は倒れたままだ。ここからでは死んでいるのか、気絶しているのかどうかも判らない。

「どういうつもりだ! 神子さまへの謁見は禁じたはず! ウィンダスの平和を乱さんとする逆賊め!」

 守護戦士は元老警備隊の所属であり、セミ・ラフィーナはその長である。従って彼女は警察組織の最高責任者の一人である筈だ。逆賊とは口が滑ったものにしても、アジド・マルジドが既に、当局からはっきりと、「危険人物」認定を受けているとは知らなかった。

「おまえ、何様のつもりだ?」

 我らが口の院院長は動じた様子もない。エース・カーディアン3体を相手に一歩も引かなかった男だ。それだけ自分の実力に自信を持っているか――あるいははったりだとしても、数え切れないほどの修羅場を潜ってきたのだろう。

「まさか一代限りの守護戦士が、俺のかわりにこのウィンダスを救うつもりじゃないだろうな?」

「力に目がくらみ、道を見失ったどこぞの院の院長よりは、役に立てると思うが?」
 口ではミスラも負けてはいない。アジド・マルジドはふん、と小さく鼻を鳴らすと、両手で抱えていた分厚い本をセミ・ラフィーナへと差し出した。
「これを見ても、ウィンダスはまだ平穏の時代にあると言えるのか?」

 セミ・ラフィーナの胸板ほどの厚さがある本。緑色の表紙。私はそれに見覚えがあった。
 彼女はぱらぱらとページをめくる。青柳の眉根が寄っている。私は中身を既に知っているので、彼女を困惑させているものの正体が判っている。

「待て!」セミ・ラフィーナは顔を上げて、立ち去りかけたアジド・マルジドの背中に声を投げた。「こいつは全部白紙だ。私をからかっているのか?」

「白き書さ……神子さまに渡してその意味を知るがいいさ。
 神々の書が文字を失い、カーディアン兵が何やら企んでいる。我らを守るのは、壊れた遺跡と疲れた軍隊……。
 これでもお前たちは何もしようとしないのか? 何も感じないのか?」

 アジド・マルジドは口元を結び、ゆっくりと階段を下りていった。その声が天井にこだまして虚ろに響いた。
「俺はやり遂げてみせるぞ! この国を……ウィンダスを、恐怖から救ってやるのだ!」


 放心したガルカ一人、ミスラ一人が残された。彼女の手には白紙の本一冊。
「ウィンダスの平和を乱す者は、誰であれ許さない……」
 セミ・ラフィーナの声には疲労がにじんでいた。

「Kiltrog。お前にミッションを与える。アジド・マルジドを追い、彼が何をつかみ、何を企んでいるのか、私に報告するんだ」

 ミッションということは、ウィンダス政府の正式な命令ということだ。口の院院長の立場は、今やはっきりと危ういものになってしまった。
 私が天文泉を退出するころ、痺れが回復した守護戦士二人が、ようやく立ち上がる姿が見えた。


「口の院院長さまですって?」
 クピピ嬢の声には緊張感がない。これで書記官というのだから恐れ入るが、彼女の話の内容からすれば、どうやら先刻の事態はまだ伏せられているようだった。
「院長さまなら、先ほどトットコ出て行ったですの。口の院へでも行って、お聞きなされたらよいと思いますの」


 私は礼を言って外へ出た。ゲートハウスの近くを通ったとき、一人のミスラが警備隊に詰め寄られているのが見えた。彼女は声高に叫んでいた。
「守護戦士なんかミスラじゃない! タルタルに育てられて、種族の心を忘れた裏切り者の集団さ!!」


 早急に口の院へ行かねばならない。それはウィンダス港にある。ガードにテレポートして貰えれば、夕刻までに同院の門を叩けるだろう。


(03.09.26)
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