その181

キルトログ、ボヤーダ樹を探索する(2)

 スニークという魔法は確かに便利である。しかし最長の場合でも、効果が数分しかもたないので勝手が悪い。制限時間が来ないうちにとみな自然に早足になるから、いつの間にか隊列が間延びしてしまった。先の方から、オオ家のようなキノコだ、とか、ぶよぶよで興をそぐ奴がいる、などと呑気な声がする。Librossである。私はSenkuとタッグを組んで先頭に追いついた。レベルが29と30であり、お互いに近いので、一緒に行動することは何かと便利であった。

 先には新たな草原が広がっていた。そろそろ一昼夜を回ったとみえて、ボヤーダ樹の中にも夜のとばりが侵入しつつある。丈の長いキノコのカサが闇を丸く切り取っている。その様子は人工の街灯を思わせる。なるほど魔光草を連想したのはこの効能のせいだ。ただしここにあるものは人工物ではなく、全て自然の――あるいは、神の――手による造作なのだ。

 Librossが家だと言ったキノコが並んで生えていた。ログハウスに上る足がかりのように、幹から突き出た枝がらせん状に連なっており、なるほど木工職人が手すさびでこしらえた模型に見える。一方で興を削ぐと言ったのは気持ち悪い生き物のことである。大蛸がずるずると粘膜質の巨体を引きずっている。大蛸は意外にタフで水に浸かってなくても平気で生きている。こんなのと戦うのはごめんだ。実際誰も大蛸に手を出そうとはせず、魔法の効果を惜しんでどんどん先へ先へと進むのだった。


 やがて草原が開けた。濃霧が視界を遮っており、障害物は全く見えない。ためらわずに前へ進んでいると、群れを作ったグゥーブーのシルエットが、霧の向こうにつかのま現れては消え、現れてはまた消えていった。草原の広さは圧倒的で私の気に入った。しかしこの霧がなければ、また別の興味深いものが見られるに違いないと思うと、残念な気もした。その思いは一瞬後に破られた。

 霧の向こうから巨大な影が浮かび上がるのを私は見た。それは近づけば近づくほど濃さを増して、エメラルド色の、四肢を大きく広げた姿を我々に晒した。また大樹だ! しかもこれは先刻の大木の規模をも大きく上回っている。

霧に浮かぶ大樹

 足元にこうこうと川が流れていた。水たまりではない。我々がボヤーダ樹に入り、眼前に広がるものを草原と認識したのと同じ意味で、川が流れていた。大樹の周辺は水で満たされていてゆったりとした流れを作っていた。深さは私の腰まである。タルタルのSenkuは帽子の縁まで浸かっている! 彼が具合のいいことを発見した。目線を私に保つと顔が上向きになるのでかろうじて鼻を出すことができる。だからSenkuは溺れないためにずっと私の顔を見ていた。仲間たちがそれを見て笑った。

 ところで大木の周辺には、巨大なトンボが群れになって、ひらひらと舞っていた。Ragnarokは何も言わなかったが、おそらくここがトンボ広場――そう彼が命名した場所――なのだろう。しばし大木のふもとで休憩を取った。しばらく待ったが霧が一向に晴れない。草原は八方に広がっているのでどちらへ向かえばいいのやら見当もつかぬ。このままではまたはぐれてしまうだろう、と思ったら、LibrossやSifは既に先に進んでいるようだった。私はSenkuやEuclidと一緒に、磁石で方角を図って南を目指した。彼らのいる方向から地鳴りが響いてきた。やがて轟音が空気を支配する。私の眼前に信じられないものが広がった。ボヤーダ樹の中で見た数々の奇跡の中でもこれは極め付けだった――水が滝になって流れ落ちているのだ!


ボヤーダ樹内の大滝

 ヴァナ・ディールで見事な滝を見学できる場所はいくつかある。特にRagnarokの故郷であるバストゥークの臥竜の滝が有名だが、先日訪れたエルシモ島の片隅、サハギンの生息地にあったやつも立派だった。今私の目の前に存在する滝は、落差の点では両者に劣るかもしれないが、幅といい迫力といい、何よりこうして身体に降り注いでくる水の勢いといい、たとえヴァナ・ディールに何本の見事な滝があろうと、いずれと比べても決して遜色がないだろうと思われた。何よりこの滝が大樹の中を流れているという事実自体が既に圧巻である。むしろその不思議があるぶんだけ他の滝よりも驚嘆に値するだろう。

 我々は半身以下を水に浸しながら滝のふもとへ近寄った。幸い滝壺はえぐれていなかった。我々は水を浴びて遊んだ。修行、などと言って滝に直接打たれるお調子者が何人も出た(注1)。髪も鎧もマントもすっかりずぶ濡れになってしまったが、轟音を響かせて落ちてくる水の重みを、全身で受け止めるのは心地よかった。私は滝の裏を覗いて見た。そんなことだろうと思っていたが洞窟がぽっかりと口を開けている。やれやれ、ヴァナ・ディールの滝の裏には、たいてい洞窟が広がっているな。臥竜の滝では石碑、ユタンガの滝では海賊のねぐらが待っていた。果たしてこの奥には一体何があるというのだろう。

 私は後で知った。この滝の洞窟こそ、Ragnarokがボヤーダ樹に寄り道をしてまで、目指したがった場所の一つだった。

 待っていたのは、温かく優しい光だった。

巨大なクリスタル

 紫色の巨大なクリスタルが、輝きながら、ゆっくりと、ゆっくりと回っていた。ゲートクリスタルから感じるのと同じ、不思議な光だった。しかしここは、テレポート・ポイントを安定させるための力場ではないようだ。何故なら周囲にかけらは落ちていなかったし(注2)、クリスタルのかたちも違っているから。だとしたら何か別の用途があるのだろう――今の私には知る由もないことだけれど。

 クリスタルの光に治癒効果はなかったが、知らず我々は癒された気持ちになった。不思議な光は、旅と戦いの疲れを、ひととき忘れさせてくれた。我々はそこで休憩をとり、心身ともにリフレッシュして、再び滝を潜って元の場所へ戻った。ここは最終目的地ではない。旅はまだ続く。いよいよRagnarokは自身が眠る場所へ向かうのである。だがそれはまた、次回の講釈にて。


注1
「東洋の宗教僧は、心身を鍛えるために、滝の水を浴びて修行をすることがある」
(Kiltrog談)

注2
 ゲートクリスタルにテレポートしてくるためには、それを調べたときに入手できる、クリスタルのかけらが各自必要です。


(03.10.12)
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