その190

キルトログ、暗黒騎士ザイドに再び会う
ベドー(Beadeaux)
 沼地に作られたクゥダフ族の都市。
 周囲を足場の悪い沼地に囲まれ、天然の要害となっているため、クリスタル戦争に敗北した後も、サンドリアやバストゥークの討伐隊を全て退け、クゥダフ族残党の安住の地であり続けた。
 柔らかく湿気に満ちた土壌を掘り進めるため、クゥダフ族がバストゥークから盗んだ高度な冶金・建築技術が遺憾なく発揮されていたが、腐食が著しいため、錆びない金属ミスリルの入手は、彼らにとっても重要事となっている。
(ヴァナ・ディール観光ガイドより)
 私はベドーへ入った。先刻少し晴れ間が覗いたように思ったのだが、空は鉛色を取り戻して、驟雨(しゅうう)がまた襲ってきた。何だか嫌な前兆に思えて私は顔を曇らせた。

 パシュハウ沼から続く大地はいくらか硬さを取り戻している。だが何ぶん雨の多い土地のこと、泥が浮いて足裏が少々滑る。地表を覆っていた苔や下草は、何度も往来する冒険者や獣人のつま先で削られ、えぐれた赤土がむき出しになっている。私はぴしゃりぴしゃりと水たまりに踏み込みながら真っ直ぐ歩いた。後ろから突然話しかけられたので驚いて振り返った。ガルカの暗黒騎士が立っていた。ザイドは知らぬ間に私の背後を取ったのである。私は彼の足音にも気配にも全く気づきはしなかったのだ。

「どうやらその剣の重さに耐えられるようになったようだな。戦い続ける業の重さに」

 ザイドは雨に濡れてますます黒さを増している私のカオスブリンガーを指差した。

「もう既にお前は暗黒騎士たり得る資格を得ている筈だ。暗黒騎士として生きるかどうかはお前次第だが、一度、自らの業と向かい合う戦いを経験するのもいいだろう」

 そう言われると得物が無性に重く感じられる。私は背中に手を回して大剣の柄を探った。

「同じ道を極めんとするならば、また会うこともあるだろう」

 ザイドは雨のベドーに姿を消した。私はその後を追った。


 
 霧の天幕に覆われた赤土の大地。響くのはベドーを鞭打つ雨。鎧と靴の軋り。やがてベールを破って眼前に現れた四角い影は、醜く錆の浮いたバリケードだった。どうやら故意に穿たれたらしい穴は、敵を狙い撃ちするためだろうか。いずれにせよクゥダフの姿はない。私はすぐ引き返せるように身構えながら先へ進んだ。

ベドーのバリケード
ベドーの門

 一対のかがり火が私を出迎えた。門を挟んでゆらゆらと揺れている。不思議と雨でも消える様子がない。傍に指物が立っている。亀の骨か蜘蛛の巣を思わせるが、おそらくクゥダフ軍のシンボルなのだろう。

 向こうに斥候がうろついているのが見えた。好奇心から門を潜りかけたが考え直した。ここから奥へ踏み込むのはまずい。ふとバリケードに目をやると、一枚の羊皮紙が貼り付けられていた。表面に文字が見える。共通語のようだ。私はクゥダフに気づかれないようにそれをそっと盗み見た。


 ふゅじのふだぅく、はぎかのやうろ
 ぞいなれかづきにふだぅく、ばせけをとお


 先輩冒険者の忠告というところか。これを書いた人物は、クゥダフに文章が見つかった時のことを念頭に置いていたか、あるいは単にひどく慌てていたのだろう。

 私はその言葉を反芻しながら道を引き返した。Librossに貰ったサイレントオイルはまだ残っている。しかし数に限りがあるし、やはり奥へ行きたいのなら、スニークを唱えられる誰かと一緒に来るのがいいかもしれない。

(03.11.02)
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