その13

キルトログ、東の魔法塔に潜る(2)

 なつかしのWilliaは既に遺跡に行ったことがあるらしいが、暇なので手伝ってあげましょう、と嬉しいことを言う。私はお言葉に甘えることにして、東サルタの門前でいっしょにシグネットをかけてもらいましょう、と提案する。西サルタから東へ抜けて、門に向かってひた走る。途中ばかなヤグードが私にちょっかいを出してきたが、黙らせた。獣人どもは約束があるときに限って邪魔をする。まったく人の迷惑を省みない連中である。

 Williaは8レベルと私より一段階強い。赤魔道士だから片手剣と盾を扱わせてもなかなかである。彼女は私にプロテスをかけて、遺跡――東の魔法塔――へとひた走る。道を覚えているのか迷っている様子はない。私とてもまさかWilliaと二人で遺跡にもぐるとは考えていなかったが、いちど組んでいて気心が知れているとやりやすい。彼女はさっそくゴブリンの斥候に切りかかっていく。さすがに私が数撃で屠ると「モンク強い」と賞賛の声をおくる。ブロンズハーネスを着るのを忘れてしまったほど、確かにきゃつらは歯ごたえがなかった。それだけまた私たちも強くなっているのだろう。

 私はここを迷路のように錯覚していたが、実際には2フロアほどしかない狭い場所であった。広間にいる数匹にいっせいに襲われるとことだが、二人なら話は別だ。Williaはストーン(注1)も使えるのである。

「行ってらっしゃい」

 彼女に見送られて隠し通路を抜ける。口の院院長はすぐに見つかった。陽気なタルタルとは思えないほどぞんざいな口調で誰かと話をしている、聞いているとどうやら実の妹との会話のようである。


 院長アシド・マルジドは、妹と口論になっていた。彼は古代魔法を復活させて、大いなる力を手に入れようともくろんでいるようだ。彼は彼なりに獣人どもと手を結ばなくてはならないような現状を憂いているのである。

 古代魔法というのがどういうものか私にはまったく見当がつかないが、強大な威力を誇ることは確かなようで、過去にその魔法の暴発が起こり、ホルトト遺跡の魔法塔が、一部を残して大打撃を受けてしまったものらしい。力というのはえてしてそういうものだ。それ自身は決して正義でも悪でもない。

 だがそれにしても、妹の説得にまったく耳を貸そうとしない院長の姿は、赤の他人の身ながら気分のいいものではなかった。アシド・マルジド氏に関する好ましくないうわさは国のいたるところで聞けるが、私はてっきり院長が変人のたぐい――天の塔の周辺に住んでいる博士たちのような――であるせいだ、とばかり想像していた。だがこの青年には、博士たちが持っていた、浮世ばなれした一種の陽気さはまったく見られない。かわりに感じられるのは偏狭さだ。少し危険なにおいがする。彼は自分なりの正義感に裏打ちされた行動原理で動いている。しかしその点に関して他人――少なくとも妹――と議論をかわす寛容さは持ち合わせていないようだ。

「何だお前は」

 妹が去ると、院長は私を詰問した。たっぷりとした髪の毛を、頂上でくくりつけている。何だかたまねぎのような頭だ。鼻の上には小さな鼻眼鏡が乗っている。のんきそうな外見であるが、眼鏡の奥の目は鋭く、誰何の声も力強い。
 ゲートハウスから命じられて来た、と正直に答えた。院長は「ふん」と言って、実験はもうとうに終わってしまったと言う。せっかくだから例の祭壇を見てまわって、壊れた魔導球でも回収してこいと命令する。どうしようかと一瞬迷った。私にしても、何もしないで帰るわけにはいかぬ。しかし院長はさっさと出ていってしまい、私に答える間を与えなかった。残っていても仕方ないので私もあわてて後を追った。


 壁が閉まってしまうと、今の一幕が白昼夢ででもあったかのような錯覚を起こす。だが目の前で2匹のゴブリンと切りあう相棒を見て、たちまち自分も我に返り、一匹に跳びかかる。こいつらはもはや完全に敵ではない。私はWilliaの協力を得て、安心して4つの祭壇を調べることができた。その中から壊れた魔導球を一つ拾い出すことは何の造作もないことだった。


 遺跡に潜り込んだときには薄暗かったが、外はもう陽がのぼっていた。私は文字どおり晴れ晴れとした気持ちで思いっきり身体を伸ばした。

 Williaにこれからどうしますか、と尋ねると、彼女は用事があるので帰る、という。残念だが仕方がない。私は丁寧に礼を言って彼女に手を振った。そして彼女が見えなくなってから東の門めがけて歩き出した。

 さて私の初のミッションは終わった。これから国に帰って、次にどのような使命が待ち構えているものか、それを考えるとどきどきもするし何だか少し怖いような気持ちもする。


注1
 ストーンは敵の足元から石つぶてを吹き上げる黒魔法。



解説

会話モードについて

 冒頭のシーンで、KiltrogはWilliaと会ってもいないのに会話をしていますが、これはどういう理由によるものでしょうか。
 実はFF11にはいくつかの会話モードが容易されていて、冒険者同士がさまざまな形で会話や意志の疎通を楽しむことができます。
 
Sayモード 自分の周辺に無差別に話す。したがって、ある程度近くにいる人にはみんなに聞こえる。文字は白色で表示される。
Shoutモード エリア全域に叫ぶ。主に助けを求めるとき(注2)や、不特定多数に募集をつのるときに使う。乱発すると迷惑がられることも。文字はピンク色で表示される。
Tellモード 特定の個人に向けて話す。同じワールドで、両者がオンライン状態にあれば、お互いがヴァナ・ディールのどこへいても通じる。話している二人以外には聞こえない。冒頭の会話はこのモード。文字は赤色表示。
Partyモード その時点で組んでいるパーティの仲間同士で会話する。互いの距離が離れていても、パーティを解散していなければ会話は通じる。水色表示。
Linkshellモード リンクシェルという通信アイテムから生成される、リンクパールを持った者同士で会話できる。リンクシェルはヴァナ・ディールの幾つかの場所で購入可能。「同じリンクシェルから生成されたパールを、そのとき着用している者同士」の間で会話が可能となる。リンクシェルのグループごとにパールの色を設定できるうえ、装備しているパールは名前の前にアイコン化して表示されるので、同じ色のパールアイコンを持つ者同士が会話できると考えればよい。緑色表示。

注2
 実際に助けを求めるときは、ShoutではなくSayの方が便利です。というのは、Shoutはエリア全域に伝わるので、助けようという人が現れても、居場所がわからないケースが多いからです。Sayモードで助けを求めれば、自分の近くにいる人が見つけてくれる可能性がずっと高くなります。

追記:Kiltrogはアジドマルジド氏に関してよい印象を持っていないようですが、冒険者の間ではその孤高ぶりからわりと人気が高いようです。ここではあくまでもKiltrogの主観によるものだと思っていて下さい)

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送