その19

キルトログ、Bluezと謎の洞窟に侵入する

 タロンギから戻った私だったが、戦い足りないような気がして、身体がうずいた。とはいえ、あんな殺風景で危険なところにまた行く気にはなれない。仕方がないのでなじみの東サルタへ出かけた。焚き火を囲んでいるようなヤグードには、自分と同レベルの相手もきっといることだろう。

 門の近くでクロウラーを狩るエルヴァーンの青年がいた。6レベルの戦士だから私と同じ身分である。Bluez(ブルーズ)という名で、大きな鎌を背中にひっさげていた。その長い得物がエルヴァーンの長身痩躯には奇妙に似合って見えた。

 私は一緒に組まないかと彼に持ちかけた。一人でえんえんと敵を倒すのも退屈だったからである。ホルトト遺跡でゴブリンでもたいらげましょう、と言うと彼も快諾した。「ついでに口の院に寄って来て構わないか」と聞いてきたから、どうも国の用事を終わらしてはいなかったと思われる。どのみちシグネットをかけにウィンダスに戻らなくてはならないので、多少待つくらいは私にとっても何でもなかった。しばらく前には、ミッションの手伝いパーティに加わっていたのである。Bluezの協力をするくらい何でもないだろう。

 私はこのとき、彼との冒険があれほど密度の濃いものになるとは想像だにしていなかったのだった。


 緊張していたのか性格なのかはわからないが、Bluezはあまり自分から喋る方ではなかったので、いきおい私が会話のリードをとった。

 戦士二人だが、自分が想像していたほど戦いが楽なわけではなかった。Bluezの防具は私のそれに比べて質がいいとは言えず、さらにガルカの体力が勝ることから、彼の方がどうしても多く傷つくはめになった。それは少なからず、彼の好戦的な行動にも原因があった。傷ついた身体ながら次々にゴブリンに切りかかりたがるので、私は逐一体力の回復を提案し、彼が休憩している間に、周囲に目を光らせる役目をたびたび担ったりした。

 ご存じの通り東の魔法塔は大した敵がでるわけではなく、構造もいたって単純である。迷うはずがないと思っていた。だが魔導器の祭壇のある壁を、Bluezが何気なく調べて通り抜けたとき、私はおやと思った。院長と会ったのはこんな場所ではなかったはずだ。それは通路の途中にあって、緑色の光が照らし出している大きな壁面の奥だったはずだから。

 通路の先にはゴブリンが2匹いた。ゴブリン・ウィーバー(注1)ゴブリン・サグに過ぎないのだが、先刻まで表にいた奴よりも、少しばかり手強いようだった。2匹をやっつけたあと、私の疑念は確信に変わっていた。ここは私が一度も訪れたことのない場所だったのである。

「この先はミッションとは何の関係もないところですよ」

 それを言うとBluezはひどく動揺し、何も知らなくてすまぬ、と私に頭を下げた。私たちはとりあえず元の部屋へと帰ったのだが、これが偶然にせよ大発見であることは、もはや疑う余地のないことであった。


 とにかくBluezのミッションを済ませてから、私たちは満を持して謎の隠し扉へと戻ってきた。

 ここは、これまでの迷宮とはまったく趣向が異なっていた。ホルトトは太古の遺跡とはいえ、石作りのいまだしっかりとした建造物だ。対してこの迷路は、ごつごつした岩肌が剥き出しになっている。地面と天井に極端な凹凸があって、光もまっすぐに届かない。二人とも長身だからこの低い天井では頭を打ってしまいそうだった。私は強烈な閉塞感に襲われて身を震わせた。

隠し通路内部 見通しが悪くて危険な洞窟

 ゴブリンがいたるところに身を隠していた。見通しが悪いものだから不意に攻撃をくらい、慌てて応戦することもよくあった。こいつらは比較的手ごわいほうで、回復していると忍び寄ってきて容赦なく短剣で切りつけたり、ポイズンやディア(注2)などの弱体化魔法を仕掛けてきた。そのたびにBluezと私が迅速に応戦して片付けるのだった。

 私は最初ブロンズアクスを使っていたが、すぐにおっつかなくなり、モンク時代の遺産であるキャットバグナウで殴りつけた。Bluezは攻撃間隔こそ長かったが、スライスという両手鎌のウェポンスキルで獣人どもに大ダメージを与えた。強敵と緊張感のせいだろう、戦闘スキルは右肩上がりに上達した。私たち二人はお互いに笑いが止まらなかった。

 Bluezはミッションを完了できたことを私に感謝しているようであった。しかしそんなささいな貸しは、彼が見つけたこの穴場の価値に比べれば随分安いものだった。お互いさまというべきだろうか。私たちは一丸となって洞窟の奥へと進入していった。


 結果的に、洞窟は私たちの生命を二度奪った。ひとつ間違えると危険な場所であることにはかわりなかったからだ。

 最初の死は私のミスからだった。灰色の塊を岩陰に見つけたのだが、そいつはおなじみのゴブリンではなく、聞いたこともない名の巨大なカブト虫だった。直前に気づいたおかげで、私の得物は寸止めになったはずだが、この虫は人間を感知すると見境なしに襲ってくるらしい。Bluezがたちまちやられた。私もコンボを駆使して応戦したが、必殺の一撃も天然の甲冑を打ち砕くまでにはいたらなかった。

 2度目の死というのはもっとまずいものだった。私たちは国に戻されたわけだが、Bluezがついでに口の院に魔導球を届けることができたので、最初に死んだ件はまあ都合がいいと言えばよかったのだ。今度は満を持して望んだにもかかわらず、ゴブリン3匹に取り囲まれてBluezが命を落とす、という最悪のシナリオとなった。これもターゲットの選択ミスだ。しかも私だけが何とか奮戦して、かろうじて一命をとりとめていたのである。

 暗く狭く危険な迷宮に、一人取り残された身の心細さといったらなかった。だが復活したBluezがサルタバルタを駆けとおして戻ってくるまで、次々と挑みかかってくるゴブリン相手に私は単身耐え、来た道を徐々にだが確実に戻っていった。我ながらよく頑張ったものだと思う。ようやくのところで隠し扉までたどり着いたら、殺したはずのゴブリン2匹が仲良く門を守っている場面にでくわし、悲嘆に暮れたが、タイミングよくBluezが扉にたどりついたので、共謀して挟み撃ちをくらわし苦境を脱することができた。

 二人はなおも探索を続けたが、以前よりもずっと慎重だった。カブト虫を避けていこうとすると、通路の向こうに青白く光る骸骨――
マジックド・ボーン――の姿が見えた。もうさほど強い敵ではないのだけれども、以前やられた記憶が濃厚であって、ここは無理をせずに引き返そうと提案した。Bluezが快諾したので、私たちは迷宮を戻って表へ出た。階段を上がるとゴブリンが一匹、突然に襲い掛かってくる。回復が万全でなかったので肝を冷やした。ゴブの死体の傍らで、何が起こるかわからないから万全の準備で行こう、と話しあう。最後に油断して死んではまったく元も子もない。


 空にかかる綺麗な月を見ながら、私たちはウィンダスへ戻ってきた。もしもっと強い仲間を連れて、あの洞窟を探検する機会があれば、ぜひ一緒に行きましょうと私が言う。Bluezは喜んでそれに答えたけれども、笑って別れたそのあと、彼とはいまだに顔を会わせていないし、どこかで旅をしているという話も耳にしていない。

注1
 ゴブリン・ウィーバーは魔法使い系のゴブリン。「人間や獣人に毛織物を売り歩く職工」です。サルタバルタに登場するゴブリンの中では、最も強力な敵のひとり。

注2
 敵を徐々に弱体化させる魔法。白魔道士が使えるので重宝します。

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