その234

キルトログ、結婚する(2)

 結局Leeshaがやって来たのは、定刻を15分も過ぎてからである。彼女の姿を見つけて私が声をあげると、皆くちぐちに「あっ花嫁だ!」「嫁!」「万歳!」などと叫ぶのだった。オオイ、オオイと男どもが手を振る。えらい騒動である。無人島沖に救助船が通ったとしても、きっとこれほどの騒ぎにはなるまい。

 Leeshaが着ているのはヒュームの種族衣装だった。一昨日に何を着ようかさんざん迷っていたようだが、結婚式は誓いの文の関係上、あらかじめ申請していたジョブで参加しなくてはならぬ。私が戦士、彼女がシーフ。一緒にいるとき、Leeshaは白魔道士でいることが多いが、彼女のメインはこちらなのだ。単に私のレベルが追いついてないだけである。

 彼女のお気に入りであった、連邦から貰える衣装は、シーフでは着ることが出来ない。そこで(おそらく不本意にだろうが)種族衣装となったものだと思う。「やあ、新婦さんが来ましたね」と、神官さまが岩から飛び降りた。Leeshaは彼の傍らで、へへへと頭をかいている。私がちゃんとあやまりなさいというと素直に頭を下げた。

「では、本番の打ち合わせに参りましょう」

 私とLeeshaとLibrossが、神官さまの力で、会場へ移動する。後のことは頼みます、とSenkuらに手を振って、私は異空間へジャンプした。


サルタバルタ海岸(Libross撮影)
目印に使った2本の喬木。
左側の木は上写真中央と同一

 我々は崖の上に立っていた。南に大きくパムタム海を臨む。潮騒の音が心地よく耳をくすぐる。サルタオレンジの喬木が生えているあたり、確かにサルタバルタ海岸のようだ。釣り人の姿がないのは当然で、崖によって周囲から断絶したこの場所には、物理的に訪れることは不可能だ。だからこそ静かに式が行えるわけなのだが。

 会場をぐるっと見て回ったが、特に目新しくはない、切り取られたサルタバルタ平原の一空間である。神官さまが手を叩いて、さあさ、場所を決めましょう、と言う。「お二人とも、海に向かってやりますか? それとも逆がいいですか?」

 私とLeeshaは意見を合わせて、海に向かうことにした。私たちがそちらに立てば、参列客も自ずから、美しい水平線を視界に入れることだろう。せっかく海岸に来ているのに、こぞって海に背を向けて、趣を欠くような真似をするものではない。

 この場所は結婚式にしか使用されないとはいえ、式場らしい特別な設備というものはない。ステージにちょうど適している部分はないし、地面に印もついてない。そこで私は、サルタオレンジの木を利用することにした。東西に間隔をおいて――東はひどく幹が太く、西は細い――2本がたまたま海岸線と並行に立っている。この2本をつなぐ線分上、中央に私たちは立つことにする。海岸からは少し引っ込んだ位置になり、参列客のスペースを若干殺すことになるが、仕方ない。崖は海へ向けて軽く下り坂になっているので、小柄な神官さまがぎりぎりに立つと、地面に半身が隠れてしまい、後ろの参列客に見えないという事態が起こり得る。危険だという理由もむろんある。神官さまがミスをするとは思えないが、万が一事故にあってはことだ。(注1)

 1時間をかけて、通しの予行演習をするのかと思っていたが、要点を重点的に確認するだけだった(Leeshaが遅刻したせいもあると思う)。事前に学習しているせいもあり、台詞の点はそう心配がない。問題は動く場面である。シナリオには字で説明してあるだけだから、実際に会場でアクションを起こしてみなければならぬ。特に私とLeeshaが同時に動くような場面では、お互いに息をあわした方がきれいである。これがなかなか難しい。

 焦点となったのは、Leeshaを連れてLibrossが入場してくるシーン。私とLeeshaが「心の交感」を行うシーンなどである。これらがどういう動きを伴うのかは、実際に式の場面で説明することにしたい。


 あっという間に時間切れとなった。早いものだ。手抜かりがないか心もとない。肝心なところは神官さまが囁いてくれるらしいから、過度に心配する必要はなさそうなのだが(注2)

 一度、サルタバルタ平原に戻った。4人で岩の上にワープする。見下ろしてみたら、かけがえのない友人たちが、めいめい手を叩いて私たちを祝福してくれるのだった。


大勢の参列客が……

 神官さまとともに下へ降り、彼の回りでかたまりになる。式場への移動方法はこれしかない。記帳チェックを務めてくれたSifらに尋ねたら、2名の欠席があるそうだ。Senkuの弟Sigと、Leeshaの友人である。Leeshaの友人には挨拶も出来なかった。彼女に連絡文を送って貰ったが、仕事の都合がつかなかったようである。また二人であらためて挨拶に行くとしよう。

 神官さまが呪文を唱える。皆が騒ぎ出す。未踏の場所へ行けるのに興奮しているのだ。それとは別種のほてりを、私は身体の奥に感じていた。

注1
 ゲーム的には、崖から海に落ちることはありません。

注2
 式典において、神官、新郎新婦、付添人の4人はパーティを組み、必要があればPartyモード(パーティにしか届かない会話形式)で注意し合います。


(04.03.01)
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