その235

キルトログ、結婚する(3)

 海岸に移動した友人たちは、わあと声を挙げ、海を一望ののち、会場を歩き回った。ひとまずの興奮が収まってから、Librossが咳払いをして前に出る。今日のためによほど練習したらしく、身ぶり、手ぶりを交えながら、式中の注意点を説明する。よどみない口調は堂に入っている。よほど練習したのだろう。神官さまから渡されたクラッカーを配布後、席の説明を始めた。海に向かって、私たちの後方に固まって貰うのだが、左右へ分かれて中央に道を作って貰うのである。この手配にけっこう時間がかかった。

 私とLeesha、神官さまが立ち位置についている。海風を受けて、裸の腕をさすった。篭手は外している。ウェディングリングをはめるためである。指輪の交換は重要な儀式だからと、神官さまがあらかじめ忠告を下さった(注1)。Ruellなどは目ざとく見つけて、手袋を貸そうかと申し出てくれたりしたのだが。

 神官さまがスタンバイを宣言してから、私語が消えた。潮騒が静かに寄せ、引き、寄せていく。天気が良ければいいですね、と彼は言っていた。まだ朝方で風が冷たく、空は白くかすみがかっている。快晴になるさ、と私は思った。さえぎるものが何もない、海の、空の向こうに繋がる明日。

 2月18日、KiltrogとLeeshaは夫婦となるのだ。

中央に開いた道。
神官は画面手前に立っている

 神官さまが鐘を打ち鳴らした。限りなく広がった空間にも関わらず、鐘はよく響いた。天の塔まで届くかと思われる、大きく、澄んだ音色だった。

 バージンロードを、LibrossとLeeshaが歩いてくる。

 付添人は新婦を右側に立たせ、彼女の左手を取り、新郎のもとまでエスコートしなくてはならない。二人で歩調を合わせ、新婦が新郎の隣に入ると、付添人は位置をずれて、客席の最前列に入る。そこには主にタルタルさんが並んでいたから、エルヴァーンのLibrossは落ち着かなかったかもしれぬ。

 隣の花嫁をちらりと見て、私はすぐに視線を戻した。

「ええ、コホン」

 神官さまが小さく咳払いをする。

「それでは、ここに、KiltrogとLeeshaの挙式を始めます」

 あの小さい身体でよくぞ、と思うほど、神官さまの声はよく通った。鐘の音にも負けないほどだった。


「はるか昔、偉大なる初代星の神子が、長き苦難の旅の末、ここサルタバルタの地を見出された時、このようにおっしゃいました……。

『今、我々は互いに知らぬ顔の者はおりません』

『ですが、いずれここには、小さな村が生まれ、賑やかな街へと育ち、大きな国ができることでしょう』

『互いに名前も知らぬ者も、たくさんできることでしょう』

『でも、決して忘れないでください』

『夜空を見上げることを』

『星々のひとつひとつが大いなる天空を形づくっているように、私たちひとりひとりにも、必ず意味があることを』

『皆が出会いを大切にし、互いを愛している限り、この地は祝福と加護を受けられるのです』

……と」


 神官さまは、ゆっくりと話した。一語一語をはっきりと発音している。祝福の言葉は、一種の呪文なのだ。こうした長い文章に魂を宿らせるのは至難の業だろう。それもこれも私たちのためだと思うと、改めて泣けてきそうだった。

「出会いは星の運命ですが、愛を成就させるためには試練が必要です」

「星の運命によって出会いし、この2人も、今宵その試練を受けます」

「ここに集った我らは、その証人となるのです」


(Apricot撮影)

 神官さまは私に向き直った。いよいよである。私は思わず身を固くした。

「Kiltrog、今日はLeeshaの血肉となるものを持ってきましたか?」

 ウィンダス式の結婚では、新郎新婦が互いに食物を用意し、相手に食べさせることになっている。この儀式を血肉の交換という。私はメニューにさんざん迷って、友人のLandsendに相談し、前日に無理を言って作ってもらったのだった。それを新婦の前に取り出して見せる。

「はい、音楽の森のサラダを用意いたしました」

 ウィンダス水の区のレストランの名物料理である。

「故国サンドリアを離れ、籍を移った彼女を、改めてこの料理で迎えたいと思います」


 何とか詰まらずに言うことが出来た。今度は新婦に向かって、同じ質問が繰り返される。

王国風オムレツを作って参りました」

 サンドリアの料理である。私も検討したのだった。ただしLandsendには「技術的に無理」と断られた。素人目には簡単そうに見えるのだが、まあ、卵料理は奥が深いというからな! そのときLandsendはこうつけ加えている。奥さんなら作れるでしょうね。だが頼れなかったのだ……こればかりは。


(Apricot撮影)

「入手の難しい材料は、友人に手伝って貰ったり、戦闘したり、自作したりして、朝から作りました。えへん!」

 Leeshaは胸を張った。誇れる価値のある料理なのだろう。ただしコメントがずいぶん長い。出来るかぎり簡潔にしよう、と心がけていたのだが、こんなことなら私ももう少し喋ればよかった。


注1
 装備のシステム上は、篭手をしてても指輪をはめることが出来ますが、気分の問題ですね。


(04.03.01)
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