その272

キルトログ、旅行客に落し物を届ける

 私はウィンダスにいて、バストゥークへ行く方法を思案していた。

 いつものように、Leeshaにテレポデムを唱えてもらう手があった。コンシュタット高地から現地を目指すのである。チョコボ代は高いが、バストゥークまで歩いていけない距離ではないし、徒歩なら無駄にお金を使うこともない。

 現実的に考えて、これが最短の距離である。なのに私は迷っていた。何故か。
 
 飛空挺が存在するからだった。

 私がまだ未熟なりしころ、よく大空を見上げて、天駆ける飛空挺の雄姿を振り仰いだものだ。あれに乗って世界を回るような身分になれば、自分も一人前になれると無邪気に信じていた。ご存じのように私の手元には、ジュノ大公から頂いたパスポートがあり、200ギルを払えば自由にこの乗り物を利用できる。とりあえず夢は叶ったわけだ……一人前になれたかどうかはともかくとして。

 ただ、この飛空挺というやつ、すごく便利なようで案外そうでない。というのは、三国を結ぶ直行便が存在せず、必ずジュノを中継しないといけないのである。片道わずか2時間の旅なのにこれは勿体無い。旅費も200ギルですむところが倍かかってしまうので、余計に損であるような感じがするのである。

 長い間あこがれ続けた飛空挺を満喫したいが、回り道をしてまで乗るほどのものか。Leeshaが傍らにいて決断を待っている。自分はうううんと唸った。空の旅は楽しいですよと彼女が言う。だから余計に私は悩む。

 バスには何で行くべきか。
 飛空挺か、テレポか。空か、徒歩か。

「よし、決めた!」
「決まりましたか?」
「バスで行きましょう」

 大笑いが聞こえてくるかと思いきや、Leeshaはぐうぐうといびきをかき始めた。ええい起きなさいと私はLeeshaを揺さぶり、なかば強引に飛空挺会社まで彼女を連れていった。


 ウィンダスの発着場は舗装されておらず、踏み固められた土が剥き出しになっている。乗降口へ繋がる桟橋の手前に、ヒュームの男が青い顔をして立っていた。

「お客さまの落し物があったのです」と彼は言う。どうやら飛空挺会社の旅客係であるらしい。

「次の便にいらっしゃることは確実なのですが、私は多忙で乗るわけにはいきませず……」

 そういう事情なら私が渡してやってもよいと言うと、彼は大変に感謝して深々と頭を下げた。写真を一葉取り出して、これがそのお客さまですと言う(注1)。見れば女性のタルタルで、髪の毛を頭の両脇でお団子にしている。旅客係はひどい心配性で、大丈夫ですか、もう覚えましたか、と何度も尋ねる。そのしつこさに私は少し気分を害して、ねえきみ、お団子あたまのタルタル嬢と乗り合わせる確率がどのくらいあるだろうか、ましてや選ばれた者しか乗れない飛空挺なのだ、と強い口調で言う。旅客係は黙ってしまったが不服そうである。私も客には違いないので、どうやら声高に文句を言えない様子だ。

 私は彼を無視して桟橋に戻る。ほら、と言ってLeeshaが空を指差す。「来ましたよ!」


 くじらのように白い歯を見せた飛空挺が、大きく弧を描きながら水面を滑り、着岸した。Leeshaは乗り口とは反対側の扉を開け、眼下の水面に釣り糸を垂らす。少しでも沖の方で釣ろうという心意気なのだろう。

 ほどなく合図があり、飛空挺が発進した。飛び立つときにくらっと眩暈がする。
 
 脳を落ち着かせてから、タルタル嬢を探しにかかった。
 
 私は旅客係に謝らなければならない。正直、公共の乗り物の規模というものを全く軽く見ていた。私は知らなかった――ジュノへ向かう飛空挺の中に、いったいどれだけのお団子タルタルが乗っているのかを!



 他種族の見分けをつけることは難しい。タルタルはそれが顕著である。生来の年齢不詳であるうえ、顔つきが幼いので、男か女かすらわからないことが多い。そういうときは髪型で何とか見分ける。逆に言えばそれ以外に判別する方法はほとんどない。

 髪型が同じ場合はどうすればいい?

 まして、それが6人も7人もいる場合は?
 
 私は必死に写真を思い出していた。服は青かった。だがこれは参考にならない。流行服だか制服だかは知らないが、みんな団子頭に青いスーツだ。ヘアバンドをつけていたのは覚えている。それと下ばきだ。ズボンだったろうか。ザブリガだったろうか。手袋は。靴は。

 思い切って甲板にいる一人に話しかけた。もしもしお嬢さん、人違いだったらごめんなさい。落し物を預かって参りましたのです。

「あら、ありがとう!」と彼女は言う。
「なくしちゃってどうしようかと思っていたのよ」

 タルタル嬢はにこにこと笑って私に500ギルをくれた。飛空挺に乗っているような一般客は、さすがに金持ちだ。知恵熱を出した報酬としてありがたく貰っておくことにした。

 船長が目的地への到着を告げた。飛空挺が下降していく。眩暈の霧が晴れたら、私はジュノへ着き、そこから再びバストゥークへと向かうのだ。


注1
 写真と同じ人物を探すというクエストです。三国からジュノへ向かう飛空挺で受けることができ、その度ごとに旅客の種族が変わります。見事正解したら500ギルがもらえます。
 文中では「写真」という単語を使っていますが、勿論ヴァナ・ディールにこうしたテクノロジーはありません。しかしながら、ここを写真以外の何かに置き換えてしまうと、クエストの意味合いが変わってきてしまいますので、敢えてそのままにしました。以下、文中でスクリーンショット画像に触れる場合も「写真」と表現します。
 類義語:「バス」


(04.07.14)
Copyright (C) 2004 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送