その281

キルトログ、肝試しをする(2)

 魔法のお札を使って、私たちはトライマライ水路を脱出した。ウィンダス港へ落ち着いてから、潮の香りの混ざった空気を腹いっぱい吸うと、先刻モーグリに貰った包みを開いてみた。

 私の包みは、拳ふた握りぶんくらいの、細長いものだった。大きさの割にはずしりと重い。想像したとおりそれは刃物だった。どうやら包丁のようなのだが、刃はすっかりこぼれ、茶色の染みが錆びとなって広がっている。こんなぼろぼろの包丁に何の意味が……。

 しっぽ切り

 私は驚いてそれを取り落としそうになった。しっぽ切りの伝説は、ガルカに伝わる怪談話である。これで切り落とされたガルカの尻尾は、二度と再生することがないというのだ。呪われた包丁なのである(注1)

 Leeshaが同じく包みを開いて、やはりぶるぶると震えた。彼女へのプレゼントは真っ赤なロウソクだった。血糊のロウソクと呼ばれるこの品物は、ヒュームの叙事詩に登場する、滅びの象徴であるらしい。主人公の女帝がこれに火を点したために、玉座から転がり落ちてしまうというのが、話の筋書きである。

 Leeshaには不吉な品物かもしれないが、私には何でもない、ただの赤いロウソクに過ぎない。同じく彼女にとっても、しっぽ切りは単なる錆びた包丁だろう。私たちはモーグリの指示通り、お互いの品物を交換した。これで少しは気が楽になった――Leeshaが包丁を振り回して、私の尻尾を切り落としてしまわない限り。

 Leeshaは意味深にほほほと笑うと、それを丁寧に包みにしまった。私たちは森の区へ行き、品物をモーグリに渡した。彼は景品として浴衣をくれた。ようやく私たちも祭りに参加できたような気がした。


星降る丘で花火を見る

 翌日の夜、星降る丘へ上ってみた。ウィンダスの方角で、花火が色とりどりに広がっている。ぽぽぽぽん、というくぐもった破裂音も耳に心地よい。私たちは土に腰を下ろして、うっとりと花火に見とれた。同じようなことを考えている者がいるらしく、私たちの隣では、おのこエルヴァーンとおみなタルタルのカップルが、仲良く寄り添って、南東の空を見守っているのだった。もっとも彼らは二人きりだった――三人組の私たちとは違って。(参照


 肝試しは楽しいというので、もう一回Leeshaと出かけてみた。今度は何処へ飛ばされるのだろう、とわくわくしていたら、先刻と同じトライマライ水路へ出て、大いに失望した。Steelbearに尋ねてみたなら、肝試しの目的地というのは、種族と性別同士の組み合わせによって固定されている筈だという。つまりガルカとヒューム女性が組んだ場合、基本的に同じ場所へ飛ばされるのである(注2)。これでは変化がなくてつまらない。私が誰か別の人――ヒューム女性を除く――と肝試しをすれば、違うところへ行けるのだ。いろいろ試してみるのがいいかもしれない。

 Steelbearと組んで、モーグリと話してみた――が、却下された。「二人とも、同じ反応しかしなさそうでつまらないクポ」という、わかるようでわからないような理屈である。同じ種族で性別が違う場合、あるいは違う種族で性別が同じ場合には、組み合わせに問題はないという。従って、事実上単一性の種族――ガルカとミスラは、同種族の友人と参加は出来ない。何とも不公平な取り決めだと思う。


 Stridemoonの友人であり、結婚式にも参加してくれた、タルタルのLyon君が来たので、一緒に肝試しをした。グスタフの洞門へ到着した。既に地図を持っている場所だったので苦労はしなかった。砂から顔を出した岩の陰にゴールポイントを見つけたのだが、同じく「見つかった、見つかった」と言っているLyonは、近くにいる様子がない。どうやらゴールポイントというのは複数ある様子だ。宝箱のように、出現場所が決まっているものなのかもしれない。

 姿を見せたモーグリと話をすると、さっきのような包みをくれた。中にはやっぱりしっぽ切りが入っている。Lyonの持ち物とさっさと交換してしまったが、彼の包みからは、からからに干からびた頭蓋骨が姿を現した。これは嘲笑うドクロといって、タルタルの子守唄でうたわれている。ドクロにつられて笑ってしまうと、一生笑い続けなければいけない、という恐ろしい伝説がある。しかし私がしげしげと眺めても、声を上げるわけでないし、見かけが滑稽だということもない。おそらく子供をおとなしくさせるための方便なのだろう。せっかくだからLyonには言わずにおいた。

 Apricotもウィンダスへ帰ってきていたので、Lyonと入れ替わりのように、彼女とコンビになった。肝試しにもそろそろ慣れてくると、何処へ飛ばされるかが一番の楽しみになってくる。やはり行ったことのない場所がいい。そういうところの地図は持っていないのが普通なので、迷宮の中では苦労する羽目になるが、冒険の喜びに比べれば何ほどのことがあろう。

 タルタル女性とのコンビは、望みどおりになった――気がついたら、暗い洞窟の中にいた。眼前を小躯の人影が通り過ぎる。ぼろぼろのフード。右手にランタン、左手の包丁。緑色のつるつるした頭……トンベリだ! 私たちは、トンベリたちの巣窟である怨念洞へ飛ばされたのである。


怨念洞内部
トンベリ

 蛸のように四肢を広げた布が、天井からぶら下がって、その下に岩製の燭台が据えられていた。サハギンと一緒で、洞窟にあまり手を入れている様子はない。自分の姿が見えず、足音もせずで本当によかったと思う。私はそっとトンベリの隣を通り抜けた。さて道は左右に分かれている。どっちへいったらゴールがあるのか全く見当がつかない。

 迷路で困ったときには、片方の壁に手をついていくのがいいという。一方通行の脇道や、落とし穴がなければいいが! 明かりの側を離れてしばらく行くと、少し勾配が急な坂道の途中に、ゴールポイントを発見した。近くをコウモリがぱたぱたと飛んでいる。遅れて到着したApricotが、しっしっと言ったが去るはずもない。姿を現して襲われたらいちころである(後でわかったが、これは杞憂だった。コウモリは音で敵を判断するので、スニークが効いている限り、攻撃されることはないのだ)。

 私たちはウィンダスへ戻った。今回Apricotから貰ったのは、啜り泣くドクロというやつである。先刻のドクロと似ているが、こちらはつられて泣いたら、涙が永久に止まらないらしい。Apricotにしっぽ切りを渡したら、彼女はきらんと目を輝かせて、それを振り回し始めた。「やめろーー」と言って私は逃げ回った。同様のことはLyonもやろうとした。思うにしっぽ切りの呪いとは、尻尾が生えてこないという伝承ではなく、それを手に入れた人が、思わずガルカに向かって振り回したくなるという、その事実にこそあるような気がする。


注1
「これを字義通りに受け取るならば、普通の包丁でガルカの尻尾を切り落とした場合、無事に再生するということである。しかしガルカ相手にそんな真似はしないで頂きたい。諸君が腕を切った場合のことを考えよう。血がだらだらと出ても、やがて治癒し傷は塞がってしまうだろう。だからといって、腕を切ってくれという要請に、諸君は耳を貸すだろうか。再生するということと、痛い・痛くないということは、まったく別の問題なのである」
(Kiltrog談)

注2
 必ずしも一箇所とは限りませんが、その場合でも2〜3箇所に限定されるようです。


(04.08.11)
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