その287

キルトログ、肝試しをする(3)
イフリートの釜(Ifrit's Cauldron)
 エルシモ島を形成した活火山「ユタンガ山」の火口。
 火山ガスが充満しているため、長時間留まることは命の危険を伴うものの、山道を登らずともガスの道を通ってここまでたどり着くことができる。
 ガス生命体である「ボム」の誕生する地としても知られ、彼らに噴火を防いでもらうため、かつてはこの道から生贄が送り込まれていたらしい。
 さっきから黒い岩の上を歩いている。長靴の下でざりざりと音がする。こいつは霜ではない――私は灰の粒を踏んでいるのだ。

 私は手のひらで額の汗を拭いとった。おそろしく暑い! 毛穴から小さな汗の玉が噴き出て、涙の粒のようになり、身体をしたたり落ちているのがわかる。しばらく立ち止まっていたら、足元にちょっとした水溜りが出来たことだろう。だが私は歩かねばならぬ。ゴールポイントを見つけて、Ragnarokと一緒にウィンダスへ戻らねばならぬ。

 私が歩いているのは、荒涼とした山道である。ごつごつした岩肌がむき出しになっており、どこかグスタベルグを連想させる。むろんここはバストゥークの近くではない。地図は持っていないものの、エリアの見当くらいはつく。さっき岩と岩の間をのぞき見たとき、橙色の輝きを確認したのだ。私の知る限り、溶岩の流れている場所はひとつしかない――エルシモ島南部、ユタンガ大森林の奥にある、イフリートの釜と呼ばれる大火山である。

 そう、溶岩! 暑いのはそのためだ。むき出しになっている手のひらや尻尾がひりひりする。涼しいはずの浴衣もすっかり熱を吸って、体毛をじわじわと包み込むように焼く。大量の発汗で体力が落ち、集中力が奪われている。周囲には硫黄のガスが充満しており、回復の助けにはならない。ゆっくりゆっくり息をして、乏しい酸素を吸い集める。せめて一気に深呼吸といきたいところだが、そんな元気はもうない。それに炎を吸うようなものだ。大きく深呼吸したなら、鼻孔と肺が焼けただれてしまうだろう。

 道の両側は岩壁だった。地図がないから右手を頼りにする。そうして隘路を抜けていくと、突然広い場所に出た。目の前に巨大な、星の大樹の幹にも匹敵しようかというくらいの大穴が開いていて、そこから白い煙が立ち上っている。道は穴を取り囲むように続く。縁まで歩き、底を覗き込んでみて、私はあっと声をあげた。


白い煙が立ち昇る

 穴はすりばち状になっており、その底には、溶岩が泉のように沸いていた。あかがね色の、とろとろとしたシチュー状の液体から、オレンジに輝くマグマが、玉になって吹き上がっている。何でも融解状態の溶岩は、1200度もの高温に達することがあるらしい。

 この火口からボムが飛び出てくるのである。ボムには親も子もなく、生命を一代限りで――自爆すらして――終える。はかない一生であるが、冒険者にとっては面倒な相手だ。果たしてボムの存在価値とは何だ? あの迷惑な生き物が、ミスラ哲学の宇宙観、大きく輪を描く天のことわりに寄与しないならば、いなくなってくれた方がどれだけありがたいか! 私は冒険者として率直にそう思うのである。しかしこうして火口を見下ろし、ひとときも絶えることのない、大地の力強い脈動を目の当たりにすると、このエネルギーの吹きこぼれから、生命の一つや二つ生まれても、何の不思議もない気がしてくるのだ。ボムには親も子もない。ガルカも然り。いのちのかたちは一様でない。この事実を「生命の神秘」などといって片付けたら、あまりに陳腐なまとめに過ぎるだろうか。


大火口

 Ragnarokとゴールポイントを探して、さんざん山道を歩いているものの、合流できる気配が全然感じられない。かわりに意外な人物とすれ違った。私同様、モーグリに姿と足音を消されているものの、近くへ来ると気配でまるわかりである。私の妻のLeeshaである。

 この奇妙な現象は、二組の肝試しが、同じ場所に重なったために起こったのである。イフリートの釜に到る組み合わせはいくつかあるが、そのうちの一つに、ヒューム男子とガルカ、ヒューム女子とミスラというのがある。我々は仲間同士で集まって、めいめいコンビを作り、肝試しを楽しんでいたのだが、たまたまLeeshaの組と私の組が、組み合わせの妙によって、同じ場所へ飛ばされてしまったというわけだった。

 肝試しに参加している冒険者は、ダンジョン内に複数箇所存在する、ゴールポイントのどれかへ到着すればよろしい。必ずしも同じコンビが、同じゴールへたどり着かなくてもクリアとなる。私はRagnarokと離れたまま、Leeshaに道を先導して貰って、彼女の後をついて行ったので、さながら夫婦でイフリートの釜にやって来たような格好になった。

 Leeshaは私を小道へ誘導する。火山口を大きく外れて再び道は狭くなる。道には尻尾の長い猿――野生のオポオポが群れている。全身毛むくじゃらの猿どもが、この高い気温にどうやって順応しているのかは謎だ。小道でもところどころで溶岩がむき出しになっており、オレンジ色の滝状になって流れているのを見ることが出来る。あんなところに踏み込んだら、一瞬で足が溶けてしまうだろうな! 私は楽しくない想像を一人でして、ついブーツをごしごし手のひらで擦ってしまうのだった。

Leeshaと野猿

 Leeshaの先導でゴールへたどり着いた。しかし私のパートナーはRagnarokであったから、品物の交換は、先に無事に帰った彼としなくてはならなかった。彼が差し出したのは災厄のロウソクである。Leeshaのと似ている。どうも同じ種族のは、同じような品物になるようだ。私はしっぽ切りをRagnarokに渡す。ガルカは男ばかりだから、しっぽ切りの女版というのは存在しない。

 ヒュームは二本のロウソクで、タルタルは二個のドクロである。エルヴァーンは囁きの書呻きの書という二冊の本だ。ミスラの道具が面白い。ヨアトル蚤という大きな蚤で、噛まれると大変かゆいのだという。FakefurとStridemoonに見せてみたら、二人ともさっさと逃げていった。私は腹をかかえて笑った。私もこんなことをしているようでは、しっぽ切りを振り回す友人のことを、とやかくは言えないというものである。


(04.08.19)
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