その299

キルトログ、アットワ地溝を渡る
アットワ地溝(Attohwa Chasm)
 アラゴーニュの東部を縦断する地溝帯。
 アットワとは、ミスラの古語で「渇き」を意味する。
 その名が示す通り、ほとんど雨が降らず、干割れるほど地面が乾燥している上、至る所で地割れから有毒ガスが噴出する過酷な土地である。
 だが、この環境に適応した生物は意外に多く、直射日光を避けるため、地面に潜み獲物を狙うアントリオンや、ガスを吸って美しい毒花を咲かせるガスポニアなど、独特の生態系が見られる。
 今まで、この地溝に行くためには、いくつもの険しい断崖を越えねばならなかったが、先頃、ある登山家が比較的安全な地下ルートを発見したため、冒険者でも行けるようになった。
 なお、その登山家はミスラの口伝でこの地にあるとされる「パラダモの丘」を探していて、消息を絶ったらしいのだが…。
 世界が再び広がってからというもの、Leeshaはしきりに興奮して、山登りに行こう、山登りに行こうという。エルシモの火山の話かとでも思っていたら、どうやらブブリム半島に隣接する、アットワ地溝にある山のことらしい。

 広報にはこうある。ある登山家――紙上に名前は明かされてない――が、シャクラミの地下迷宮内部に、アットワ地溝への抜け道を発見したとのことだ。してみると、私が知らないだけで、地溝の存在は明らかだったのだろう。Leeshaの言う山が何なのか、私には知る由もないが、もしかしたら小高い丘があって、アトラクションを催している係員でもいるのかもしれない。ビビキーの潮干狩りのように。

 そういうわけで仲間を募ったのだが、告知をしてからさほど時間がなくて、友人みんなに情報が伝わったとはいえなかった。私が捕まえたのはGreenmarsだった。タイミングが悪かったのか、Librossと彼女の他には、モグハウスから出て来ている友人が少なくて、Ragnarokをムバルポロスに見つけたくらいだった。彼は彼で、ぶっ通しで地下に篭り、お金稼ぎに集中していたため、やらなければならない仕事が溜まっているという。彼は迷ったすえ誘いを断ったのだが、そのうち連絡が入り、やっぱり仕事は後回しにして、一緒にアットワに行く、と宣言した。大丈夫かと聞くと、大丈夫だという。正直大丈夫とは思えないが、私たちとても彼と行きたかったので、ジュノまでわざわざ来てもらった。

 そののち「アットワの最奥地に行かないならついていってもいい」というRaidenが加わり、Steelbearが参加して、ようやく人間が揃った。我々はメアの岩へ飛び、シャクラミの地下迷宮へ走った。勇気ある探険家氏が見つけた抜け道、我々はそこを通って、未知なるアットワ地溝へと挑むのだ。


 我々の拍子抜けしたことに、エリアに入ってみると、メリファト山地と見まがうような、赤茶けた丘陵が続いている。同地よりもずっと乾燥しているのだろう、地面に大きなひび割れが走っているが、声高に地溝というほどおおげさなものではない。名前倒れか。そう思って洞窟を潜ると、私はまたしても、ヴァナ・ディールの自然の驚異を思い知ることになった。伝説の地溝が、我々の前に大きな口をあけていたのだ。


底の見えない地溝

 洞窟の先は、断崖絶壁に繋がっていた。道は崖の中腹に、張り出すようについていて、体面の崖の道も並行に走っている。崖を見上げたら、雲のない空が、壁面を切り取るラインのように見えた。

 問題は下である。ヴァナ・ディールで何度も崖を覗いたことがある。例えば北グスタベルグ、あるいはボスディン氷河。いずれも落っこちたら即死は免れない高さだったが、アットワの地溝の深さは群を抜いている。何しろ地面が見えない! 果たして地溝の底が、川なのか道なのかもわからない。底知れぬとはこのことで、地獄を思わせる深い奈落から、暖かい強い風が、ひゅうひゅうと音を立てながら吹き上げてくる。ところどころに木製の橋がかかっており、対面の崖に渡れるのが幸いだ。崖の中腹に洞窟が穴を開けている。その奥に通路が続いている。洞窟の奥は迷路になっており、手分けして出口を探しているうちに、やがて我々は離れ離れになってしまった。

 アットワで出くわした怪物は、百の目を持つスライムで、こいつは私のレベル――51戦士――では取るに足りない相手だ。一行で最もレベルが低いのはGreenmarsであり、ぎりぎり奴らに喧嘩を吹っかけられる強さだった。従って、常にRaidenやLibrossらが周囲におり、ボディガードとして彼女を守っていた。Greenmarsはしきりにすまながっていたが、彼女を誘ったのは私だ。命に危険が及ばなかったことはよしとしよう。ヴァナ・ディールにおいては、結局「死なない」という事実が何より大切だからだ。

謎の山

 やがて洞窟を抜けると、再び地割れの走った丘陵に出た。双葉を広げた巨木の向こうに、パンの横たわったような山が見える。Leeshaがそちらを指差した――彼女が言っていたのはこの山らしい。伝え聞くところでは、パラダモの丘というのがあって、件の登山家は、登頂を目指すうちに消息を絶ったという。この山はパラダモの丘なのだろうか。だとしたら、簡単に登れるとは到底思えないのだが。

「キルトログ探検隊は、パラダモの丘へ向けて出発するのだった!」
 Leeshaは妙に元気だ。

「たいちょー!」
「どうした?」と私。
「クアールを発見しました!」

 なるほど地割れの向こうに、黄色い毛皮のクアールが、ぴんと髭を立てて歩いている。ソロムグ辺りにいるやつとは種類が違うようだが、今の我々にとって危険な敵ではなさそうだ。

 我々は山のふもとへ近づいていった。しかし、地割れのためになかなか辿りつけない。迂回に迂回を繰り返しているうち、逆に遠ざかっていく始末である。ところによって、地面のひびから黒い噴煙が上がっている場所がある――強力な毒の煙で、通れないのだ。厄介なのは、噴煙がずっと吹き出ている場所と、間欠泉のように、時間が経ったら引っ込む場所があることである。両者を見極めるには、ただ傍らで待ってみるしかない。それもどのくらいの周期で煙が晴れるのか、誰にも判らないので、ひたすら煙を見つめて待っているのは苦痛ですらある。レベルによっては敵に襲われもするだろう。

 もしかして登山家も、道中でクアールに食われたのかもしれないな。私はぼんやりそう考えた。

「うわ、たいちょー!」再びLeeshaが声をあげた。
「どうした?」
こればっかりだ。

「ア、アントリオンが襲ってきます!」


アントリオン

 ノミが巨大になったお化け――私にはそう見えた。しかしこいつは、アリ地獄の怪物だ。地中に身を潜めて、獲物を待っているのが普通だが、地面の上を歩いている個体もあるという。以上のようなことを学んだのは、もちろんモグハウスに帰ってからだ。この時は槍を取り出して、さっさとぶちのめした。図体の割りに、51レベルで十分楽に勝てるらしい。もちろん集団で対したからであって、一人では大いに手こずる筈だが、このような凶暴な奴が潜むアットワ、油断ならない土地だなという思いが、さらに大きく募るのだった。

(04.10.13)
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