その301

キルトログ、サハギンの倉庫と宝物庫へ行く

 アヤメの父エンセツの話によると、侍である彼女は、刀の使い方をノーグで覚えたらしい。侍が主に持つ得物は両手刀である。忍者の片手刀とは違う――しかし、ノーグは東洋文化との接触地であり、忍びの道を学ぶためには、やはりこちらへ顔を出すのが本筋だと思う。

 私が忍道を学ぶのは、二刀流をものにしたいと考えるからである。また忍術にも興味がある。彼らは精神力を用いず、忍具と呼ばれる専用道具を代用にして術をかける。中でも特に重宝されるのは、敵の攻撃をかわす空蝉の術である。いくら戦士の防御力を強化しても、レベルの高い敵の攻撃を受け止めるのは厳しい。「受け流す」技術は長じるにつれて重要さを増してくる。高レベルの戦術はすべて、空蝉の術の使用が前提となると言っても過言ではない。

 忍術のいくつかは天晶堂で手に入る。火遁や水遁の術などは、バストゥークの支部で売られているし、ジュノの本部も氷遁の術を扱っている。問題は空蝉の術だ。店で巻物の姿を見ることはない。どこで入手できるだろう。そう考えたとき、私の脳裏にノーグが浮かんだのも不思議ではあるまい。当地は海賊の本拠地であり、ある意味では天晶堂の真のアジトとも呼べるところなのだ。


 キールという名の海賊に話を聞いた。海蛇の洞窟には、秘密の倉庫がいくつかあるらしいのだが、サハギンどもが妙な仕掛けを張り巡らせてしまったので、容易に出入りが出来なくなってしまったらしい。その場所へ行って、封のされた箱を取ってきてくれないかという。ノーグの入り口を隠すように下りている、岩に偽装された扉――倉庫はそれに守られているそうだ。地図がないのが心細いが、私は洞窟に出て、隠れ倉庫を探した。仕掛け扉が目印ですぐ見つかった。木造の倉庫は腐り、ピルジを思わせる嫌な臭いが充満している(注1)


サハギンが使用する倉庫
床に穴が開いている

 約束の品を取って戻ると、キールは喜んで、遁甲の術:壱の巻物を差し出した。なるほど、こんな入手方法もあるのだ。だとしたら、誰かが空蝉を持っていて、クエストの手土産としてくれることがあるかもしれない。

 
 数日経って、私はまた同じような依頼を受けた。今度はレイスレアンという名の若者だった。彼は落ち着かない様子で、海蛇の洞窟にあるサハギンの宝物庫について話した。そこから何か――何でもいい――取ってきてほしいという。そして彼は「頼む」といって平身低頭するのだ。どういう事情だか知らないが、人に頭を下げるからには、それだけ重大な用件なのだと考えてよかろう。

 私は軽く考えていたが、どうやら彼の言う宝物庫とは、先日訪ねた倉庫とは違っているらしかった。そこでLeeshaや、Steelbearらに守られて、海蛇の洞窟を辿った。偽造された岩扉はあちこちで見つかった。おそらくそのうちの一つが――倉庫と同じように――宝物庫へと通じているのだと思う。

 岩扉のいくつかは、力を込めて引いてもびくともしない。ノーグの手前のそれは、手で触れたくらいであっけなく口を開くのに、一体どうしたことか。そこで私は、じっと目を近づけて扉を調べてみた。取っ手の近くに小さな窪みがあり、周辺に金属の粉が散っている。この光るのは金だろうかと、ザックから獣人金貨を取り出して比べた。そうしたら、金貨の大きさが、ぴったりと窪みに合うではないか。 

 私は金貨を窪みに滑り込ませた。ががが、と扉があっけなく開いた。なるほど、こいつは獣人硬貨を使うシークレット・ドアなのだ。他の扉も同様に探ってみたが、銀貨を使う扉、ミスリル貨を使う扉など、いろいろとドアによって硬貨の違うのが判った。幸いなことに、硬貨ははめ込んでから取り出せばいいので、通行料として支払われるわけではない。もしそうなら一開閉で数百ギルの損である。獣人の鋳造硬貨は、ジュノではそれくらいの値段で取り引きされているのだ。


サハギンの宝物庫

 宝物庫などというから、どのように立派な場所かと期待したが、結局のところは単なる洞窟だった。海賊がやったように、木造で部屋を作る技術は、サハギンにはないらしい。石筍の天辺を、平らに切り崩したようなかたちの、原始的なテーブルが並ぶ。天井には海藻がぶら下げられており、ぴとぴとと塩の雫が垂れている。宝はテーブルの上にあるが、見かけはただの二枚貝の殻であったりして、奴らが何に価値を見出しているのか理解しがたい。小型の宝箱も散見されるが、そういうものには決まって鍵がかかっている。濡れ手に粟の儲けを期待した方が馬鹿だった。サハギンも盗掘を恐れている以上、当然といえば当然の用心なのである。

 私が宝物を物色していると、背後から何者かに誰何された。海賊の男が一人立っていた。「何をしているのだね」と問うので、宝物を持って帰るのだ、と答えた。品物の価値は問わないのである。何しろ依頼人本人がそう念を押したのであるから。

 意外なことに、男はレイスリアンを知っていた。彼はレンと名乗った。ノーグで部隊の編成をしているという。宝物庫で品物を得てこい、というのは、そもそも彼の指示であった。彼は配下に試験を課しているのだ。人を使うもの、自力で挑むもの、目的の達成方法は、人によって異なる。手段は問題ではない。レンはそれぞれのやり方を見て、本人がどういうタイプの人間であるかを把握、適切な位置に配属するのだという。

「レイスリアンは情報収集タイプらしいな」

 レンはにやりと笑った。

「さて、ご覧の通り、この宝物庫には目ぼしいものがない。何を持って帰ったらいいか、あんたも困るに違いない。これを持っていきなさい。心配はいらぬ。サハギンと話はつけてある。我々と彼らは敵同士ではあるが、奇妙な共生関係を築いているのだ、いろいろとな」

 レンが差し出したのは、粗末な海龍の像だった。私はこれをノーグに持ち帰った。何も知らないレイスリアンは大喜びで、このことは決して人には話してくれるな、と念を押してから、空蝉の術:壱の巻物をくれた。

 海賊が唾棄すべき職種であることは、私も理解している。奴らは徒党を組んで、商船や、マウラ=セルビナ間の定期船を襲う。それでも私は、レイスリアンと表面的に友好であった。彼は私を利用し、私は彼を利用した。いざとなれば、得物を取って斬り合うことに躊躇はしない。だから、海賊とサハギンの仲は理解が出来る。冒険者と天晶堂もまた、「奇妙な共生関係」にある仲なのかもしれぬ。


注1
 ビルジは船底に溜まる水のことで、不快な臭いを放ちます。


(04.10.20)
Copyright (C) 2004 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送