その306

キルトログ、三国のツリーを観る

 ヴァナ・ディールに星忙祭というイベントがある。

 12月の後半、人々は木に飾りつけをして、スマイルブリンガーという聖人たちを讃える。彼らの伝承については、今月のヴァナ・ディール・トリビューン紙に詳しいが、念のためここで概略を紹介しておこう。


 大変むかしむかしのこと。当時の流れ星は、地面に落ちたあとも、天に帰ることが出来た。スマイルブリンガーと呼ばれる人々が、その手伝いをしていた。彼らは丸い目と長い耳が特徴で、赤い装束に身を包んでいた。背中の大きな袋には、珍しい品物がいっぱい入っていた。

 彼らは太陽の光に弱かったので、必ず日が暮れてから、街を訪れていた。鍵のかかった城門は、流れ星を使って開けてもらった。彼らは流れ星を天に返す。星は光の粉を撒き散らしながら、感謝を告げるように、ぱっと夜空に花を咲かせた。それがスマイルブリンガー到着の合図だった。市民は彼らを招きいれ、面白い異国の話と、珍しい品物に酔った。とりわけその恩恵に預かったのは、子供たちだった。スマイルブリンガーは大変な子供ずきで、袋からおもちゃやお菓子を出しては、いつも彼らに配っていたからだ。

 ところがスマイルブリンガーは、突然に来なくなった。理由はわからなかった。みんな肩を落としたが、子供たちの落胆は、とりわけひどいものだった。彼らは笑うことすら忘れてしまったのである。大人たちは事態を憂慮して、一計を案じた。彼らは光のクリスタルを大量に集めた。それを大木にぶら下げて、飾りつけたのである。きらきらと輝くそれは、流れ星が天に帰る、光の粉の花に見えた。

 子供たちが大喜びで丘へ駆けていくと、大木の下に、見慣れた人影が立っていた。赤い帽子、丸い目。とがった耳。彼らは笑って、人影を大いに歓迎した。

 スマイルブリンガーが、子供たちのもとへ帰ってきたからだった。

 以上はフラジ・オラージ氏の『流れ星のかえる夜に』という絵本に掲載された物語の概略である。ウィンダスの伝承らしいが、スマイルブリンガーの話は全世界各地にあって、それぞれが大同小異だという。これで十分に概要をつかめるはずだ。

 物語で大人たちが採った、大木にクリスタルを下げる装飾が、星忙祭の始まりとなった。従って三国では、木を飾りつけるイベントがまず行われる。専門のツリー職人が腕をふるうらしい。私はLeeshaと一緒にこれを観に行った。


 バストゥーク行きの飛空挺が出発間近だったので、これに飛び乗った。あの国には大木などないように思う。たいていデコレーションは商業区の噴水に施されるので、きっと今回もあれが代用に使われるのだろう。

 どうせ港で降りるのだからと、港区の噴水に先回りしてみた。ここの装飾は素晴らしかった。白い樹氷が噴水を覆っているように見える。不思議に砂糖菓子のようでもあって、二人して腹を鳴らした。近づくと肌寒いのは何故かと思っていると、目の前に雪のかけらがちらちらと舞い落ちてきた。どうやらそれは、装飾の天辺にあるクリスタルから吹き上がってくるらしい。手の込んだ演出だ。私たちは商業区へと移った。

 バストゥークのツリーは、黄と白の光の線が縦横に走り、いかにもきらびやかである。明るさがきついかな、と思っていたが、夜になると印象が一変した。なるほどこれは美しい。水車が作った電気を利用しているのだろうか。近くに立っていると、夜でも日が射しているかのようだ。もっとも幽玄的な雰囲気には欠ける。だがこれはバストゥーク全体の傾向で、よくも悪くも彼らの文化にはわび・さびの感覚がない。散り行くものの美しさに目を向けるには、バストゥーク人は現実的で、いささか実直すぎるのであろう。


バストゥークメインツリー

 続いてサンドリアである。こういうイベントに際して、長い歴史の力を見せつけるのはやはりサンドリアだ。ごちゃごちゃとした下町はともかく、城郭の構造・デザインに統一性がある。とりわけ北サンドリアの情景は、どこをどう切りとっても美しい。建物の配置ひとつひとつに計算された美学がある。都市計画を堅固なものにする、強大な中央集権性の賜物だろう。


 噴水を囲み、左右に揃った並木の間を、赤と緑の垂れ布が渡っている。木々は電飾できらきらと輝く。奥に見えるのはドラギーユ城。城までも風景に収めたツリーのデザインは、ことのほか見事である。全体に古びて、くすんでいる城壁にも風情がある。もっともこれはサンドリア文化に元来含まれているわけではなく、単に年月を経て、哀愁がにじみ出てしまったものである。歴史の重さこそサンドリアの強みであるが、一方で老いたる獅子と揶揄される弱みでもある。時代を遡れば、あるいはドラギーユ城も、華美な印象を弱くして、バストゥークのような武骨な力強さを感じさせていたのだろうか。

サンドリアメインツリー

 最後にウィンダスである。Leeshaがこっそりと耳打ちした話では――といいながらここに暴露してしまうが――彼女はウィンダスのツリーをあまり高く評価していないのだそうだ。去年の星忙祭では、バストゥークとサンドリアのそれに随分見劣りしたという。

 さて彼女がこう言う気持ちはわかる気がする。もともとウィンダスは木と土がむき出しになった、自然と一体化した街である。目につく色は緑ばかり。だが緑を基調とするからこそ、どんな原色も中和される。カザムの町を思い出してみるがよい。あすこに咲く花を、クォン大陸のどちらの国に持っていっても景色に馴染まないだろう。大自然が生んだ植物、とりわけ南国産のものには、信じられないほどいびつで、毒々しい色のものが存在する。だがカザムは、ウィンダスはそれをやわらかく受け止める。街そのものが森だからだ。そう考えると、人間が小手先で施した装飾などが、印象深く映らなくても当然かもしれぬ。

 そのウィンダスのツリーだが、なかなか面白い趣向だった。森の区の噴水は、巨大な人間の顔のかたちをしていた。Leeshaは街角の木を観賞して、思いのほか見栄えがする、去年よりずっといいということを言った。確かに昼間は、垂れ下がった赤布ばかりが目立っていたが、日が暮れて明かりが灯ると、噴水の青い輝きに反射して、ツリーの顔が鮮やかに浮かび上がるのだった。


ウィンダスメインツリー

 失礼ながら、私はここでうとうととしてしまった。目の前を友達が通り、挨拶までしてくれたのに、つかのま意識を無くしていたようだ。さすがに三国を回るのは体力的に厳しかったといえる。私は申し訳ないながら、Leeshaとお別れをして、早めにモグハウスへと切り上げた。さて以上は星忙祭が始まったばかりの頃。24日が近づくにつれ、どんなイベントが行われるのか。Steelbearならずとも楽しみに待ちたいところである。

(04.12.27)
Copyright (C) 2004 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送