その335

キルトログ、刀鍛冶の依頼を聞く(2)

 私は58レベルの戦士であり、そんじょそこらのモンスターに、不覚を取る程度の実力でもない。しかしながら、相手の一匹はボムである。自爆に巻き込まれて……という最悪のシナリオも考えられるので、ぞろぞろ徒党を組んでいかぬまでも、魔法を使える仲間がいた方がよさそうである。

 今日はLeeshaがオフであって、珍しく傍らに彼女の姿がない。Librossがいたので声をかけてみた。ご存じのように彼は、闇の王討伐に参加した仲間であり、黒魔法の熟練度にはひとかたならぬものがある。

 テレポ屋さんを雇い、コンシュタットまで飛ばしてもらった(注1)。問題の洞窟の位置は、Librossが知っていた。高地の西端に、地虫がたくさん生息している原っぱがあって、そこを取り囲む岩肌に、洞窟がぽっかりと口を開けているのだという。それを聞いて思い出した。私もそこで地虫相手にスキルの鍛錬をしたことがある。当時は弱かったこともあって、何の穴だろうと思いつつも、危険があってはいけないので近寄らなかった。今はれてその謎が解けるわけだ。

 ボムに不意をつかれないように、息を殺して洞窟へ入る。天井は低く、私が背伸びをしたら、頭が届きそうなくらいだ。手探りで進むと、すぐに手が岩壁へ触れた。炭化した床を探すもへったくれもない。たいへん暗いので、床の色を見分けることが出来ぬ。仕方がないから、古鉄を適当なところに置いた。洞窟が狭いので、どこに置いてもたいして違いはないであろう。

 背面が明るくなったような気がして、振り返った。あかあかと燃える球状の怪物が、煙を吐きながら近づいてくる。おお確かにボムである。奴は一口で古鉄をすくいとると、それだけでは飽き足らぬとばかりに、襲いかかってきた。私たちは得物を手にとり、この野蛮なフォージャーを迎撃する。

 戦闘はあっさり終わった。ボムが自爆する間もなく、私の斧と、Librossの魔法が炸裂し、怪物は息絶えた。じんじんと熱を帯びた鉄塊を拾い上げる。まずは卸し鉄入手、と考えていると、チョコボの足音が近づいてきて、洞窟の入り口で下りた者があった。ボムの洞窟にはるばる尋ねて来た者は誰だろうか。

 登場したのは、白魔道士のローブを着た男である。Urizaneだった。私が刀鍛冶の依頼を受けていると知って、ジュノからはるばる出向いてくれたらしい。
 コンシュタットの戦いはあっさり終わったが、どう考えても次の目的地の方が危険そうだ。白魔道士の彼がいてくれるのはありがたい。私たちはチョコボに乗り、遠路はるばるリ・テロア地方へと駆けるのだった。

神木

 聖地ジ・タに到着する頃には、すっかり夜となっていた。クリスタルの柱が青白く輝く中を、私たちはチョコボを駆って、Urizaneの誘導する神木のもとへ急ぐ。

 目的の神木は、なるほど数千年の樹齢というだけあって、幹は相当に太い。十数人が手をつなぎ、ようやく囲めそうなほどだ(もっとも星の大樹には遠く及ばないが)。私たちは木の周辺をぐるぐると回り、手ごろな枝を捜した。ジュノで買っておいたまさかりを取り出す。生木を切り取り、そこに新芽を接木して、成長した枝を持ち帰るのだ。木によっては枝の損傷で死滅することもある。霊木を傷つけることが目的ではないから、出来るだけ慎重にやらなくてはいけない。

 そう思ったのであるが、選択の余地はなさそうだ。Urizaneが神木の下枝を指差す。大柄なガルカの私でさえ、届きそうな枝はひとつしかない。こぶのように盛り上がった根っこに乗って、まさかりをすかっと走らせる。枝は鮮やかに切り取られて、ばさりと地面に落ちたのであるが、同時に不穏な空気が辺りに漂い、ざわざわと木々が騒ぎ始めた。不気味な樹霊が、下ばえをかきわけて近づいてくる。不本意ではあるが、私たちは、霊木を傷つけた「報い」を、自分たちの身体で受けなくてはならないのだ。


ガーディアン・トレントとの対決

 LibrossとUrizaneの魔法のおかげで、トレントを撃退することができた。背伸びして神木を接ぎ、にょきにょきと成長した枝を折り取る。私はノーグへ急ぐ。刀の期限がいつまでなのかはわからないが、早急に届けるのに越したことはないであろう。


 私が品物を渡すと、ジョクリベは大変ありがたがったが、今すぐに謝礼は出来ないから、3日ほどしたらまた来てくれという。3日間をよそで過ごして、またノーグにとんぼ返りも面倒なので、現地に泊まった。約束の3日後、彼のもとを尋ねてみたら、傍らにギルガメッシュが立っており、私に向かってにこやかに手を振るのであった。
「よお旦那」
 彼は変わらず気さくである。
「旦那のおかげで、なかなかいい刀が出来た。ノーグの長として、礼を言わせてもらう」
 いや、なんの。
「ちょいと……ここだけの話だが」
 彼は私を、木箱の陰につれていき、耳元にささやいた。
「刀を作るのは大変だってことが、わかったかい。今あんたらは何でも、クリスタルでぼしゅ〜〜と作っちまう。そういう合理性からは、の魂は生まれねえ。侍道の真髄とは、得物の魂と、使い手の魂が一体となることよ。
 そいつをわかって欲しくて、今度みたいなかたちで、材料を集めてもらったんだな」
 私は彼の顔をまじまじと見た。私を試したというわけか?
「でも、無事で帰ってきたろ?」
 ギルガメッシュは悪びれる様子がない。

「幾多の戦いをくぐり抜けてきただろう、あんたのことだ。侍の資質はある。己の力を知ること、使う術を知ること、意味を知ること。そのとき刀は魂となり、魂は刀となる。刀を知ることは、天地の理を知ること……波立たぬ水面のような、不動の心をもって奥義とする。明鏡止水とは、侍だけが到達できる境地よ。
 難しいかい。今わかんなくてもいい。将来において、わかってくれりゃいい。
 ガルカの旦那よ。あんたがどういう生き方を選ぶのか知らないが、もし望むなら、侍道は目の前に開けている。あとは、あんたがどういう歩き方をするかだよ。文字通りそれは“道”だからな。あんたの道は、あんた自身が切り開くんだ。
 侍の心得が、あんたの役に立ってくれればと思ってな……よけいなお世話だったかもしらんが……。
 さあ、こいつを受け取るといい」
 
 ジョクリベが、一振りの刀を差し出した。私はそれを鞘から抜いた。業物であることは一目でわかる。黒々とした刃に、不思議な板目模様が浮いている。
「ご覧のとおり、ジョクリベの銘が入ってねえ。無銘刀だ」
 ギルガメッシュが言う。
「刀匠に使われる得物であっちゃいけない。これを使いこなして、自分だけの刀にしてくれたらいい。旦那には旦那の侍道がある。あんたならそれを極めて、世界を救ってくれるだろう……そう俺は信じているよ……」

注1
「テレポタクシーは、各種テレポを使える冒険者による、自主的なサービス業である。相場の変動はあろうが、メア、デム、ホラといった比較的近場には、1回につき500ギル。ヨトやヴァズなど、遠方なら1回1000ギル程度である」
(Kiltrog談)

(05.04.04)
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