その337

キルトログ、ムバルポロスの調査をする(2)

 <蒸気の羊>亭に戻ってきた。ウィンダスの学者というタルタル嬢は、相変わらず飛空挺の下船客に向かって、調査募集の声をあげている。私は身を大きくかがめ、彼女の肩を叩いて、アヤメと話してきたのだが、詳細を聞かせてもらえないだろうか、と頼んだ。

「それはどうもー」
 彼女は深々と頭を下げた。
「わたくし、鼻の院所属のラヴォララと申しますー。以後お見知りおきを。
 ちょいとこっちへ……」

 私たちは建物の陰に入った。ラヴォララは私にしゃがむよう要求し、耳元に口を寄せるのであったが、甲高い彼女の声がきんきん響くものだから、ひそひそ話している意味はあまりないように思われた。

「この調査は、決して簡単なものじゃありませんよー!」
 ラヴォララはトコトコと地面を踏み鳴らした。
「ムバルポロスに入った冒険者が、モブリンたちの襲撃に合っている、という話を聞いてます。侵略者だと思われてるのかもしれませんが、あなたは冒険者であるからして、当然こうした危険には、自己責任で当たってもらわないといけませんー」
 私はこくりと頷く。
「……それでも彼らの中には、わたくしたちに友好的な者もいるでしょう。あなたの仕事は、そういうモブリンを見つけて、何か彼らの文化や生態がよくわかるような代物を持ち帰ることですー。
 あ、力づくはだめですよー。いたずらに彼らを刺激しちゃいけません。話をうまいこと持っていくのも、あなたの仕事の一部ですからねー。
 品物を持ち帰ってもらえれば、相応の値段で買い取ります。何か質問はー?」

 ない、と私は言った。ごきげんよう、と彼女が手を振った。私はモグハウスへ急ぐ。相応の値段というのが気になるが、ラヴォララのいう品物以外にも、金目のものが手に入らぬとも限らない。


 ジュノで仲間を募っていった。日々の鍛錬のおかげで、同地の危険は相対的に下がっているが、ムカデみたいな連隊を組んだゴブリンが気になる。1人より2人がいいし、2人より3人がいい。LeeshaとUrizane、Illvest、Steelbearを加えて、最終的に5人となった。これならどんな間違いをやらかしても、モブリンごときに後れを取ることはないだろう。

 ラヴォララの言う“友好的な”モブリンは、比較的楽に見つかった。もっとも私の目から見れば、特別な人格者ではなくて、たんに商魂がたくましいというだけに過ぎないようだ。
 以上は私の直感による。というのは、彼の言葉がちっとも理解できなかったからである。

「ヒャーザスカルッヘープ、フォイバァ! ボゥムバァ! 
 エハッドゥッ! ズンワッタァセーアダストゥ?」


モブリンの商人

 積極的にコミュニケーションを図ろうとしているのは、むしろ彼の方である。何かを要求しているのだ。言葉が通じないのに、商取引目的であることがなぜわかるか。私たちは物事を頼まれ慣れている。妖怪退治を哀願してくる村人と、揉み手をしながら近づいてくる商人とでは、声のトーンからして違うものだ。態度は言語ではない。いかに文化が特異とはいえ、モブリンだけが例外ということはないだろう。

 私がかぶりを振っていると、モブリンは、我が意を得たり、というふうに手を叩いて、指を4本差し出した(注1)

「ゼェジボゥムズ、ナダーンァン“古代ボムの灰”、1 2 3 4」

 ようやく知っている単語が出てきた。と同時に、モブリン語を理解するための、ささやかな糸口を掴んだように思うのである。
 私たちはボムを探すため、ムバルポロス内を縦横に走る、洞窟の中へと入っていった。


 モブリン語は突飛なようであるが、我々が使う共通語と同じ言語系列にある。意外な結論ではない。モブリンは地底で独自の進化を遂げた。それほど長いあいだ袂を分かったのだから、言語も独特になっていて当然だろう。要するにモブリン語は、共通語が奇妙に“訛った”言葉なのである(注2)

 前半のゼェジボゥムズが、“There are Bombs”を意味しているのは明らかである。そうであれば、ボムが古代の灰を落とす、それと交換してやろう、という申し出なのは察しがつく。ラヴォララの意に沿うものかどうか微妙だが、少なくとも彼は“友好的”であり、他に適当なやつが見つからないのだから、やってみる価値はあるはずだ。

 私たちはエンシェント・ボムを見つけては狩り、灰を集めた(注3)。背嚢をいっぱいにして戻ってきた。さっそく交渉が始まる。
「ダザギブゥ、ディスナッベィジャー ティズベリー、ヴァラブゥヲンヌムゥバルポロォス」
 彼のいう品物を、灰と交換するのはいいのだが、1,2,3,4というのは、それぞれ灰の個数を指していたようだ。ひとつずつ、全部で4回渡しておしまいではなく、ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつの組み合わせで、要するに全部で10握の灰が必要なのだった。灰の価値はよくわからぬものの、モブリンの強欲な姿勢に悪態をついて、私たちは彼と取引をし、奴らの文化が垣間見える品々を手に入れた。すなわち、以下の4つである。

 薄汚れた書物
 突起のある壷
 裂けた棍棒
 塗料の剥げた髪飾り


 以上のどれもがみすぼらしい。特別な価値があるとはとても思えない。徒労感が身体を襲ったが、いちおうの戦利品として、ラヴォララに見るだけ見てもらおうと思った。

 もともと学者だけあって、ラヴォララが真っ先に関心を示したのは、書物だった。汚れた理由は、頻繁な使用によるものらしい。地下で発達した文字だとしたら興味深いが、共通語だった。しかし彼女は喰らいついた。文字よりも内容に強く惹かれたらしい。

「これは、女神さまの聖典ではないですかー!」

 サンドリア式かウィンダス式か知らないが、アルタナ教の書物のようである。彼女は興奮気味に言った。もしこれが真実であれば、わたくしたちは女神さまの愛でつながっている、戦争なんかする必要はこれっぽっちもない、と。ラヴォララの喜びようは大変なものだったが、テンションは長続きしなかった。次の品物を取り上げたとたん、露骨に顔をしかめて、それを放り出してしまったからである。

「何だか、嫌なにおいがしますー」

 突起のある壷である。振るとチャポチャポと音がしていたから、液体が入っているのだろう。モブリンの飲み物かどうかよくわからないが、漂ってくる腐敗臭には、私も帰還途中に閉口したものだった。
「ウィンダスに持ち帰って調べてみたいんですが、さて、飛空挺に乗せてくれますかねー?」
 私はさあと言った。だがひとりの客としては、同じ船に乗り合わせるのはごめんだと思った。

 ラヴォララの調査は続いた。しかし、聖典で上がったはずのテンションは、ほとんど長続きしなかったようだ。残るふたつの品物が、失望しかもたらさなかったからである。
 棍棒が裂けているのは、無理な使い方をしたかららしい。ラヴォララによれば、実践的な武器ではなく、装飾用か祭祀用であろう、ということだった。私は懐疑的になった――モブリンに一杯くわされたのではないかと。なんとなれば、いくら装飾用であるとはいえ、裂けている棍棒に価値があるとはとても思えないからだ。

 そう考えると、最後の髪飾りも怪しかった。一見みすぼらしい品でも、実は高価だという話はよくあるが、これがそうとは限らない。一応ラヴォララは、ずいぶん凝った彫刻だ、と褒めてみせたが、口調に熱はなかった。モブリンにも彫金師がいるのでしょうかね。彼女は首を傾げたのだが、逆を言えば、そのくらいしかコメントの仕様がないのだった。

 私たちは憤慨した。いんちき獣人め! ラヴォララから1000ギルの謝礼を貰ったが、気持ちの収まるはずがない。私たちは文句を言いに、ムバルポロスへと引き返した。モブリンはいけしゃあしゃあと言う。
「ティズベリー、ヴァラブゥヲンヌムゥバルポロォス!」
 何が“These're very valuable on Movalpolos”だ!(注4) そんなものがいるか、と私は怒鳴り、持っていた残り一握の灰を、力いっぱい相手の顔面に叩きつけてやった。

「……オマエ、気づゥたのか?」
 紛れもない共通語で、モブリンは言った。やはりこいつは食わせ者だ。言葉がわからないふりをして、まんまと灰を10袋も仕入れたのである。
「るゥない ジャークッ! オゥレ、宝、やァる。オマエ、ゆるす」
 私はモブリンをぶちのめそうとしたが、考えを変えた。奴が隠しから取り出したものを見たからである。

「こゥれ、チョーなクールな宝ものゥ」

 銀色の札である。紐が通され、首からかけられるようになっている。相当古いものであり、“クールな宝もの”には全く見えない。

「ヒャーザスカルッヘープ、フォイバァ! ボゥムバァ!」

 態よく追い払われてしまった。私は抵抗しなかった。2,3発殴ってやることも出来たろうが、それをしなかったのは、奴の宝物……あの銀の札を、昔どこかで見た気がしてならなかったからである。

 だが……一体どこだったろう?


注1
「ゴブリンがそうであるように、モブリンもミトンを手にはめている。片手の分岐はひとつしかないから、4の数字を表現するためには、両手を広げてみせなくてはならない」
(Kiltrog談) 

注2
「共通語を話すモブリンは、奇妙に間延びした音を好んで使う。音が反響しやすい地底では、短い子音や破裂音は聞き取りにくいのだろう。モブリン語の独自性は、こうした環境下において育まれたのではないだろうか」
(Kiltrog談)

注3
「モブリンと共生しているボムは、名前の通り、古代種である可能性が高いが、容姿は現生種と変わらない。あまりに単純な生物だから、進化の余地がほとんどないのかもしれない」
(Kiltrog談)

注4
 in Movalpolpsが正しいような気がします。


(05.04.16)
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