その409

キルトログ、トゥー・リアに潜入する(3)

 私はル・アビタウ神殿に近づいていった。仲間が一緒に来ていた。Urizaneが「壁際を決して歩かないように」と注意した。神殿の入り口に向かって幅の広い通りが延びているが、その両脇の壁には、等間隔でアーチ状の穴が開いていて、中にグラウンドキーパーの姿が見えた。青紫の光に満ちた穴はまるで、機械人形の格納庫といった趣である。


 一般にグラウンドキーパーは単なる庭師であり、性質もおとなしい。だがこの穴に収められているやつは例外で、人間を感知するなり襲ってくる習性がある。門番のような役割をしているわけだ。とはいえ感知能力はさほど広くなく、両方の壁から等間隔に離れた位置、すなわち通路のど真ん中を歩いてさえいれば、奴らに気取られる危険はない。泥棒心理をうまく利用したトラップといったところか。さて、この罠にはまって命を落とした者は過去何人いたことだろう。


 こうして私は無事に神殿へ入った。すぐ大広間になっており、突き当たりに大きな黒い石碑が立っているのが見えた。闊歩する機械人形たちを無視して(奇妙なことに、中にいるやつは警備兵ではない)、オブジェクトを調べてみたら、古代巡礼のときの石碑がそのまま背を高くしたようなかたちなのに気づいた。

 私の眼前に、女の幻影が現れた――暁の巫女頭イヴノイルである。
「ここは、いまは亡き王国の時代、ル・アビタウ神殿と呼ばれていました」
 建物の名前はこのときに知った。

「ル・アビタウは、トゥー・リアの中枢。神の扉計画の要・宿星の座へと続く場所……」

 宿星の座。エルドナーシュはそこにいるのだろうか?

「宿星の座へ通じる道は、この神殿を中心に、五方に配置された、5体のアーク・ガーディアン――母なる石より生まれし5つ魂――により守護されています。神の如き力を持つ子供たち。奥地を目指すなら、彼らをうち砕く必要があるでしょう」

 のぞむところである。私は拳を手のひらに叩きつけて、指をぽきぽきと鳴らした。イヴノイルを見上げる仲間たちも、めいめいが胸を張って、古代の強敵に対する挑戦の意志を示している。

「本来なら、とてもかなわない相手なのでしょうが」
 イヴノイルは優しく微笑んだ。
「時が満ちた、ということなのでしょうか。か弱かった現世種も、1万年の時を経るうち、クリスタルの子たちに肉薄する力を獲得するようになったのです。もっとも、一体一ではまだとても叶わないでしょうが。あなた方が集団で、チームワークを生かすことが出来れば、勝機も見えてくることでしょう。
 たとえ一体ずつとはいえ、アーク・ガーディアンを倒すのは至難の技です。可能性は低いですが、あなた方はそれを成し遂げるかもしれない……。ただし、これだけは覚えておいてほしいのです。たとえ彼ら5人をうち滅ぼしても、神の扉計画を阻止できたなどとは思わぬこと。エルドナーシュの力は強大です。おそらく彼の力は、アーク・ガーディアンたちをも凌駕しているはず。彼を倒すことが出来なければ、すべては水泡に帰すのです。
 決して油断をしてはなりません。あなた方の健闘を祈ります」

 イヴノイルはすっと消えてしまった(注1)。我々はル・アビタウ神殿を後にした。
 

 人気のないトゥー・リアを散策した。空気が冷たく、すがすがしく、まことに晴れやかな場所である。建物のデザインに美的なセンスを感じる。エルドナーシュとカムラナートはジュノの街の設計に大きく寄与しているが、彼らが参考にしたのは、このジラートの文化なのだろうか。それとも神の国のビジョンか。

 1万年の夢。

 その途方もない時間を考え、私は卒倒しそうになった。古代ジラートはその叡智を結集させ、神の国へ至る道を築いた。計画がクリューによって頓挫し、女神が5粒の涙を流してのちも、浮遊島は雲の上にとどまり続けた。島は死ななかった。機械人形と水撒き壷の楽園として、あるじの帰還を待ち続けた。そして今、トゥー・リアは時を取り戻し、もはや時限の彼方に忘れられたはずだった、神の扉計画を担おうとしている。1万年の時を挟んでなお、まるで何事もなかったかのように。

 人類の偉大さというものがもしあるならば、トゥー・リアこそ称えられねばならぬ。永遠も半ばを過ぎてなお、衰えぬ輝き。これぞクリスタル文明の真骨頂である。やはりジラートは神の子だったのかもしれぬ。

 私はトゥー・リアに畏怖の念を覚え、そして、はらはらと落涙した。私はこの楽園をうち砕かねばならぬ。女神への帰依を願った古代人の夢を、踏みにじらねばならぬ。たとえアルタナに背き、彼女に刃を向けることになろうとも、アーク・ガーディアンとエルドナーシュを斬り、現世種の未来を――ヴァナ・ディールの明日を守らねばならぬのである。


注1
 この石碑をチェックすることで起こるイベントは、クエスト「神威」のものです。5体のアーク・ガーディアンたちと、ラ・ロフの方円で同時に戦うという、大変難易度の高いクエストで、正確にはこのイベントの後半、手にいれるべきアイテムと発生条件が説明されます。
 「神威」は本来、ジラートミッションをクリアした後のボーナスクエストですが、ここでのイヴノイルの語りには示唆的なものがありますので、上で一部を紹介しました。


(05.11.15)
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