その419

キルトログ、内なる憎悪と戦う

 時は深夜、零時が近づこうとしている。刃の血くもりもぬぐわぬまま、我々は先を急ぎ、次なるラ・ロフの劇場に到着した。

 音信不通だったSifと、ようやく連絡がとれた。彼はナイトとして、見事な全身青鎧――通称「アダマン装備」をつけて現れたが、「遅れてきて、おしのけて入るわけにもいくまい」と、襲撃への参加を遠慮する。結局パーティは、EV戦と変わらぬ構成で行くことになった。後衛はおなじみ、Leesha、Steelbear、Urizaneの白赤黒トリオ。前線にはRuell、Parsiaの忍ナ二枚盾が並ぶ。メンバーにはガルカが3人入っている。今から始まる戦いにおいて、このことの意味は大きい。クリスタルの戦士は残りひとり。侍と竜騎士の力を併せ持つ、アークエンジェルGKである。

 アークエンジェルたちそれぞれが、ゆがんだ感情を象徴するものであるならば、GKは憎悪の化身である。10ヶ月前、我々は同じような相手と対決した。積もり積もった種族の怨恨に足をすくわれ、混沌のあるじとなった「王」と。彼は強かった。同時に、ひどく弱い存在だった。私たちは証明せねばならぬ。ガルカ族が、負の宿命とも戦えることを。真の意味での強さを持ち得ることを。
 そうでなければ、我々は新しい時代を担うことは出来ぬ。冥府魔道に落ちながら、ザイドは生き方を見つけた――ならば今度は、私と、Ruellと、Steelbearが答えを出す番だと思うのだ。



 闘技場の様相は、これまでとは明らかに違っていた。一振りの刀が、床の中央に突き刺さっている。他のアークエンジェルが持っていたような、刺々しい装飾など一切ない。黒光りのする見事な業物である。名刀には使い手の心が宿るという。私は直感した――どのような結果であれ、この男とは素晴らしい勝負が出来そうだ。

 大柄な黒い影が、ゆっくりと進み出て来た。
「アークエンジェルGK!」
 奴に向かって、私は叫んだ。
「Kiltrogほか6名、現世種の名において、お前を殲滅する! いざ、得物を取って我らの挑戦を受けよ!」

 GKは刀を引き抜き、雷のような声で言った。
「内なる憎悪が、お前たちを焼き焦がす!」
 そして身構えた。ヒュームの身長ほどもある刀を、右手一本で持ち、床に垂らした。一見無防備のように思えながら、上半身に一分の隙もない。
「見事な構えだ」Ruellがぞくりと背中をふるわせた。
「この構えが出来るなら、侍をやっていたものを」
 
「いざ勝負」私は斧を引き抜いた。Ruellが暗闇の術を仕掛ける(注1)。それを合図に、Parsiaが飛び出した。GKは跳躍した。全身鎧を着ているとは思えぬ素早さで、鷹のように舞い落ちながら、Parsiaに斬りつけた。刃はすんでのところで外れた。Parsiaは片手剣を構えた。GKが鋭く口笛を吹くと、氷の皮膚の色をした竜が一頭、音もなく滑空してきて、彼女を爪で切り裂こうとした。



 Steelbearがスリプル2で応対した。竜は眠ってしまったが、GKは頓着していなかった。立て続けにParsiaを、ついで私を斬りつけた。分身が真っ二つになって消え去った。恐ろしい力、そして速さ! 両手刀を右腕一本で、これほど正確にあやつるとは! すかさずRuellが挑発し、的を引き受けた。ターゲットを回していくつもりだ。真っ向から勝負を挑んでもいいが、相手は侍である。連続で放たれるウェポンスキルが恐ろしい。明鏡止水のアビリティがあるので、多段攻撃を仕掛けてくるだろう。ラッシュで押し切られたら、空蝉の術が間に合うはずもない。確実に斬り殺されてしまう。相手の攻撃をしばらく散らし、的を絞らせないようにしなければならない。

 私は全力で飛ばした。バーサクとアグレッサーで、攻撃力と命中率を高め、思い切りよくGKに殴りかかった。奴が再び跳躍した。その姿が頭上に消える――脳天に一撃が来るか、と思った瞬間、GKは再び現れ、地面に思い切り刀を突き刺した。床から吹き上がる衝撃! 私たち3人は吹き飛ばされそうになった。GKの亢竜天鎚落は、私たちの自由を奪った。しばらくの間、足が縫われたように動かなくなって、奴の格好の的となってしまう。衝撃で目もくらみ、目標も定まらなかった。Ruellが「この!」と舌打ちをする。Leeshaたちがイレースとブライナをかけてくれなかったら、もっと混乱は続いていたことだろう。

 致命的な状況に陥る前に、何とか体勢を立て直した。アークエンジェルに対する恐れや、気後れはもうない。これまでの経験のなせる業である。TT、MR、HM、EV、我々はいずれも倒してきた。今ではもう、戦況を楽しめる余裕すら持っている。GKはものすごい剣士だ。この先どれだけ生きられようが、地上でこれほどの相手と出会うことはないだろう。この戦意――心地よい心臓の動悸は、憎悪の所産なのだろうか? 否! GKを憎まねばならぬ理由は、私には何もない。奴はただ、越えたい相手としてそこにいる。GKの容姿がどこか、かつての語り部を彷彿とさせることも、まったく気にならなかった。我々はもはや、闇の王すら憎むことを忘れた――拳で語るとは、こういう境地を言うのであろう。


 Urizaneのサンダー4が、GKの身体を打った。奴はひるまなかった。Urizaneをつけ狙うわけでもなく、Ruellを相手にしていた。さながら、私たちだけしか眼中にないかのようだった。

 GKは遂に、最後の手段に出た。明鏡止水を発動し、大きく刀を振りかぶった。Ruellがさっと身をかわし、走り出した。GKが後を追った。Urizaneがバインドを唱え、奴の足止めを図ったが、強靭な体力で跳ね返されてしまった。Parsiaがアビリティ「センチネル」を使い、防御力を上げて、GKを挑発しようとした。だが奴はRuellを柱に追い詰め、八之太刀・月光で斬りつけた。返す刀で、今度は九之太刀・花車を決める。Ruellの準備は入念だった。GKの必殺の多段攻撃は、いずれも彼の分身を払っただけで終わった。紙の破片が桜のように舞い散る中を、Ruellは逆手刀を身構え、迅を打ち込んだ。GKが花車で応酬しようとする。私は雄たけびを挙げながら、ランページで続いた。GKを包む閃光! 連携技「切断」が決まったのだ。この一連の攻撃は、奴の身体に少なからぬダメージを与えたはずだ。

 GKが再び舞った。亢竜天鎚落が襲ってきた。Urizaneがサンダーを唱えていたが、運悪く衝撃波に巻き込まれた。彼とParsiaが混乱に陥った。Parsiaはいち早く体勢を立て直し、スピリッツウィズインを放ったが、致命傷には到らなかった。GKは見かけ以上の偉丈夫だ。重ねてUrizaneが、サンダー4を落とす。これも奴の身体を直撃したが、それでも倒れず、刀を振りかぶって襲いかかってくる。

 Urizaneが遁走しようとしたとき、彼の前に飛び出した者があった。人影はGKの進路を遮った。太い胴体にタックルして、奴に強くしがみついたまま、高らかに叫んだ。
「微塵がくれ!」



 アッと声をあげたとき、勝負は決していた。すさまじい爆風が吹き荒れ、がしゃんという派手な音とともに、GKは砕け散った。黒い鎧の破片が、床の上に散乱した。Ruellはげらげらと笑いながら、床にばたりと倒れたのち、息を引き取った。蘇生魔法を信じていなければ出来ぬ、捨て身の攻撃である。HMがRagnarokにやってみせたのを、今度はRuellがGKに浴びせたというわけだ。


 私は憎悪のかけらを拾い上げた。アークエンジェルの遺片が揃った。伝説に謳われた英雄たちは、すべて感情の塵と化した――人知れぬ地における、人知れぬ戦いの中で。

 天晶歴877年11月22日未明。Kiltrog一行、クリスタルの五戦士を殲滅す。


注1
 暗闇の術は、相手の目を見えなくさせ、攻撃の命中率を下げる忍術です。

注2
 白魔法イレースは、味方にかかっている悪い魔法効果をひとつ取り除きます。亢竜天鎚落にはバインド(その場から動けなくなる)効果があるので、イレースで対処しなくてはいけません。

(06.01.17)
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