その433 キルトログ、聖者の招待を受ける(2) 古強者(ふるつわもの)の友人は私に多い。「聖者の招待状を持つ者だけが出場できる」という条件だが、メンバーを集めるのには苦労しなかった。何しろ最多で6人なのだから、私とLeeshaの他、4人に集まってもらえればいいわけだ。 ヤグードたちは4匹で出場するという。こちらも4人で出て、実力を見せつけてやってもいいが、相手のフィールドで戦わねばならぬ不利がある。やはりフルパーティで臨むに越したことはあるまい。 集まってもらったのは、 忍者のRuell。 黒魔道士の修行をしているApricot。 いつもは獣使いだが、暗黒騎士としても手練のRodin。 いつもはモンクだが、召喚士で参加のLandsend。 いずれもレベル70を超える百戦錬磨の勇士である。連邦の旗を背負って戦うのに、これほど充実したメンバーはそうおるまい。神子さまに心配されるまでもない。 我々は徒歩で出発した。西サルタバルタからギデアスに向かう――この道を辿るのは何年ぶりだろうか? 川を渡り、洞窟を抜ける途中で、落とし穴を回避していく。昔はここを歩くだけで命がけだった。だが今は……。なるほどマート翁の言った通りだ。高い山を越えて、雲に上ったにも等しい成長。 最奥地のバーニング・サークルに入った。殺風景な岩場に出た。目の前に坂が続いている。そこを駆け上がっていくと、円形の格闘場の手前に、紅色の仮面をつけたヤグードがのっそりと立っていた。痩身ぞろいの鳥人の中でも、何だかひときわ痩せぎすのように思える。 「我は、公正なるカー・トル」 割合はっきりとした共通語で言う。勢いで得物を抜きかけた我々を、ヤグード――カー・トルとやら――は片手で制した。 「静粛に。ヤグードの聖者様、タルタルの星の神子殿、両者の名のもとに、本日ここに、バルガの武闘会を執り行うと宣言する」 どうやら審判役であるらしい。私は格闘場の方を覗いて見たが、マート翁と戦ったホルレーの岩峰とほとんど変わらぬ。黒い、ごつごつした岩に囲まれた地面には、火炎色に彩られた獣人旗のシンボルマークが、巨大に赤々と光っている。観客の姿はなく、少し安堵した――完全な敵地でヤグードをぶちのめしたりすれば、よってたかって袋叩きにされかねないからだ。 「南は、ヤグード代表。剣闘士、血化粧のブゥ・ショロ」 どろどろどろ、というドラムロールとともに、ヤグードが4匹進み出た。ブゥ・ショロというのがどれだかわからないが、剣闘士というからには、おそらく反身の刀をぶら下げている奴だろう。 「北は、ウィンダス代表。Kiltrog」 人類代表と言っても差し支えない。私は大きく胸を張った。 「この戦いの勝敗は、ウィンダス・オズトロヤ和平条約にある、ウィンダスからオズトロヤへの奉納品に関する条件文に影響を及ぼす。両者死力を尽くし、非礼なき闘いをするように。試合時間は30分とする。 それでは、はじめ!」 カー・トルが勢いよく腕を振った。ヤグードどもが、めいめいに中央へ歩み出てくる。外見から察するに、白魔道士、召喚士、忍者、そして侍(剣闘士)といったところか。傍らに浮遊しているファイア・エレメンタルは、召喚士が呼び出したものだろう。奴のアストラル・フロウには気をつけなくてはならない。 戦いはあっさり終わった。私が憂慮する必要はなかった。我々はヤグードを次々に片付けていった。アストラル・フロウを受けたようなのだが、蚊に刺された程度にも感じなかった――それくらい一方的な戦いだった。要した時間はわずか9分に過ぎない。 公正なる、というふたつ名のなせる業か、試合展開を目の当たりにしても、カー・トルは冷静だった――もっとも、仮面のせいで動揺が隠されていたのかもしれなかったが。 「よく聞け」 カー・トルは、ぼろっちい巻物を差し出した。 「ウィンダスからオズトロヤへの奉納品に関する聖者の宣誓書は、このバルガ勝者の証と引き換えに、オズトロヤ城で手渡される。わかったな? 可及的速やかに、オズトロヤ城最上階まで来たまえ。 ではこれにて、バルガの武闘会を閉会する。解散!」 解散といっても、4匹のヤグードはくたばったままである。我々は奴らの死体を踏み越えて、バルガの闘技場を後にした。 不覚をとった! 罠であった。オズトロヤ城まで取りに来いというのは、我々に必要以上の危険を強いるものである。そのことに早く気づいていれば! そして、Apricotが開けた扉を、さっさと潜っていれば! そうすれば、ヤグード・ハイプリーストどもに見つかることもなかったし、RuellやRodinと一緒に、袋叩きにされることもなかったわけだ。彼らには本当に悪いことをした。 扉奥の洞窟の中には、例のカー・トルがいた。 「バルガの武闘会の勝利者か……よかろう」 と、初めて会うような口ぶりで言う(もしかしたら――そうする理由は思いつかないが――中身が入れ替わっているのかもしれぬ、という疑念を私は抱いた)。 「聖者の宣誓書と、賞品を授けよう。このたびの武闘会は、互いに有意義なものであった。知恵と技との交流を果たすことが出来た。 さあ、祖国へ戻るがよい。賞品はもちろんだが、武闘会の勝利が、何よりも価値のある手土産となるだろう」 卑劣な罠に嵌らなければな、と口中で呟いた。面と向かって皮肉を言ってやりたかったが、こんな言葉ははっきり口に出した方が負けである。 私はさっさとオズトロヤを後にした。
神子さまは土色の顔をして私を待っていた。羅星の間に入っていくと、「おお、Kiltrog、無事で……」と言いながら、私の足元に駆け寄ってきた。その真に安堵しているような様子から、神子さまが本当に、私のことを考えていて下さったことがわかった。胸が熱くなった。 「無事勝利したのですね?」 私は微笑した。試合は楽勝だったが、ヤグードの罠に嵌ったのは余計だった。 「では、ここに宣言いたしましょう。あなたが犯した罪を許し、自由を与えることを……」 「しかし、Kiltrog。いいですね? 言論の自由を与えたわけではありませんよ。あなたが満月の泉で見たこと、聞いたことは、あなたの胸の内にしまっておきなさい。 私の期待をどうか裏切らないで……ウィンダスの平穏のためなのです……お願いです」 そのように言われては立つ瀬がない。もともと喋りちらす気などなかったが、神子さま直々にお願いされたことで、私の口は完全に塞がれてしまった。 これは……命令だ。 (06.03.15)
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