その444

キルトログ、ホノイ・ゴモイと交渉する(3)

 そういうわけで、スターオニオンズ一同は、はるばるホノイ・ゴモイ邸まで出かけ、弁明と謝罪を行った。

 自分の非を認めるというのは、たとえそうするべきだとわかっていても、なかなか難しいものである。だが、コーラロ・コロは躊躇しなかった。私はそこに彼の傑物ぶりを見る。スターオニオンズが自警団ごっこの域を出ないとはいえ、彼は伊達にリーダーを続けているのではない。コーラロ・コロが決して正義に妥協しないからこそ、団員たちも彼に黙ってついていくのである。

「ごめんなさい!」と団長が深く頭を下げたとき、私も最後尾で土下座していた。そうまでして謝る理由は私にはないのだが、タルタルの子供と頭の位置を合わせるには、どうしても屈辱的な姿勢を取らざるを得なかったのである。

「魔導球を、カカシに使ってしまったと!」
 ホノイ・ゴモイの顔色が、紙のように真っ白になった。血の届かなくなった拳がわらわらと震えていた。これはそのまんまくたばるな、と思ったものだが、爺さん意外に強い心臓をしていた。ふらっと体をふらつかせつつも、何とか壁に身体を預け、踏ん張ってみせたのである。

「ああ……あれほどまでに強い力を……カカシなんぞに……」

 彼はぶつぶつとつぶやいていたが、やがてハッと血色を取り戻して言った。

「そうじゃ、そその……カカシを分解して、魔導球を持ってくるのじゃ。大至急じゃ!

 
 ホノイ・ゴモイが発した言葉に、みんな固まってしまった――天啓というべきアイデアに浮かれはしゃいでいるのは、老人ただひとりである。
「ぶぶブンカイって、バラバラってことだろ!」
 コーラロ・コロが悲鳴をあげた。
「そ、そんなことしたら、ジョーカー死んじゃうよお!」

「カカシがどうなろうが、そんなもの知ったことか。ひとのものを持ち出して勝手に使ってしまったのはお前たちではないか。分解してでも返すのは当たり前じゃ。あの魔導球は、ただの魔導球ではないのじゃぞ。その価値もわからんくせに……わがままなことばかり言うでない!」 


 ホノイ・ゴモイの意志は固かった。どれだけ懇願しても、彼は決して意見を曲げようとはしなかった。老人の気が変わらぬと知ったコーラロ・コロ、およびスターオニオンズ一同は、枯れ花のように萎れて、ぞろぞろと扉から出て行った。団長は去り際に、私の方を見上げて「どうしよう……」とつぶやいた。そのときのつぶらな瞳が、私の心臓をきゅんと収縮させた。

 私とホノイ・ゴモイのふたりが残った。


「わしを、ひどい人間じゃと思っておろうな」
 老人は低い声で、私を試すように言った。

「しかし、わしの言っているのが正論であることは、お前も認めようて。わしのものを返してもらうのは当然じゃからな……。
 あの子たちはどうすると思うね?」

 さあ、と私は肩をすくめた。

「わしの考えでは、ブンカイは出来なかったと言ってくるよ。おおかたそんなふうにごまかすつもりじゃろう。わかっておる。
 しかしある意味では、それは事実じゃろうな。カーディアンは主人の命令を聞くが、分解となるとどうかな。わしも詳しくないが、自衛機能がついているんじゃないか? だとしたら、激しく抵抗する可能性がある。ましてやあの魔導球は、普通のものとは違うからな。子供たちの手で何とかなるようなことじゃない。場合によっては大事故にも繋がりかねん。
 手の院の人間なら、カーディアンを御する方法を知っておるかもしれんが、この際たよるわけにはいかんからな……」

 やはりホノイ・ゴモイは、ことを大きくするつもりはなかったようだ。手の院に魔導球を没収されることを恐れているのだ。

「そこで、お前じゃ」
 
 私?

「見たところ、お前はそこそこに腕が立つようじゃ。お前ならカカシを叩き壊して、魔導球を持って来ることが出来るだろう。
 ……嫌そうな顔をしておるな」

 正直、気がすすみませんな、と私は言った。

「ばかものめ。よく考えるのじゃ。あの子供たちは、美しい愛と正義の世界に生きている。しかし実際は、社会は欺瞞と打算に満ちている。言うまでもなく、理想と現実は違う。子供の理想では世の中はわたっていけん。彼らも早晩それを学ぶじゃろうな。それは避けられぬことじゃ。

 そういう意味では、あの子たちにカーディアンを分解させ、社会勉強を施してやってもよい。もしかしたら、カカシは素直に言うことを聞くかもしれんからな。だが、理想の世界に生きるのもまた大事じゃ。それは子供の特権とも言える。今回のことで、彼らは現実を学ぶじゃろうが、致命的な傷が残りはせんかね? 彼ら自身がカーディアンを分解するのと、何者かによって破壊されるのとでは、一体どっちが残酷だと思う?

 もちろん、犯人がお前だと知れたら、お前は恨まれるじゃろう。見たところとても仲がいいようじゃが、彼らとの関係の修復は不可能じゃろうな。だが、汚い泥をかぶるのは、大人の仕事だということを肝に命じるのだ。あの子たちが結局傷つくのなら、どうするのが一番いいかということを考えるのだ。
 これ以上言う必要はないじゃろうな。お前にも葛藤があろうから、報酬はたんまりとはずんでやる。わしはここで待っておるぞ。わかったら、さっさとカカシのところへ行ってこい」


 スターオニオンズの集会所へ顔を出したら、誰もいなかった。私は木箱をひっくり返して中をあらためたが、カーディアンの姿はなかった。

 ジョーカーはどこにいるのだろう。スターオニオンズが、親たちの協力を得て、カカシをかくまっているとは考えにくい。カカシがもとよりバラバラなら問題はなかろうが、ジョーカーが生きて動いている限り、隠す場所は限られてくる。

 だとしたら……おそらく、あの場所しかない。


(06.04.24)
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