その452

キルトログ、修道院に突撃する(2)

 両開きの扉を勢いよく開けると、中からオーキシュ・ウォーチーフが飛び出てきた。好都合! 木陰の方に誘導してこいつを攻める。Sifが中へ踏み込んでいく。切り結んでいる音がかすかに響いてくる中、「やべえ! こいつ強え!」という悲鳴が聞こえてきた。早く彼に加勢せねばならない。

 幸いにして、雑魚は簡単に殺すことが出来た。満を持して修道院に飛び込んだら、顔を布で包んだ、猫背の呪術師が出迎えた。右手には不恰好な杖を握っている。これがセーダル・ゴジャルの言っていた、呪術の杖に違いあるまい。

 ダーティハンデッド・ゴチャクザックは、さすが院長が認めるだけあって、レベルの高い魔道士だった。何しろ、Sifが盾を勢いよくぶつけても、詠唱の集中力を乱すことがないのだ。ただし、さすがに多勢に無勢ではあった。ガ系の魔法に多少手を焼かされたが、7人で仕留めるのに時間はかからなかった。完璧な勝利である――先ほどの敗北がいかに情けないものだったか、痛々と思い知らされるほどだ。

 修道院の中を観察してみた。調度品の数々は取り払われ、北壁に大きく玉座が備え付けられている。玉座といってもオークのことだから、生皮製の粗末なものだ。壁には二重丸を描いた、薄汚れた大きな旗が堂々と飾ってある。奴らは院を破壊するだけに留まらず、このような不浄なシンボルをうち張って、人類の偉大な母を冒涜しているのである。



 王立騎士団ですら成しえなかった修道院の奪還。我々は跪いて休みながら、この地で亡くなった人の霊に祈った。空には夕闇が迫っている。屋根は穴あきだと以前言ったが、むしろ覆っている部分の方が少ないのだ。ご神体もすっかり苔むして、灰色に汚れている。敬愛する者が誰もいないから、アルタナも無残な姿をさらさざるを得ないのである。

 ご神体の傍らに、窓が大きく開いていた。窓の手前には足場があって、そこから外を見下ろせば、ちょうど修道院の裏手に降りられるようになっている。どうやらオークども、逃走経路まで用意していたものらしい。呪術師がここから逃げ出さなかったのは、奴め勇敢だったと褒めていいものかどうか。

 修道院を出る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。夜空に白い三日月が浮かんでいた。我々はリフトを降り、セーダル・ゴジャルのもとへ向かった。タルタルは相変わらず、可愛らしく腕組みをして、台座の上で踏ん張りを見せている。私のやったことが正しければ、もう攻撃してくる者はいないはずなのだ。
 Sifと友人氏に彼の正体を説明したら、ふたりともたまげたような声をあげた。
「ゲッ! 耳の院院長!」とSif。
「ということは、魔法学校の校長先生?」

「大魔道士ですぞ」と私。現職の院長ということは、ウィンダス――ひいては、世界有数の魔法使いなのである。とてもそうは見えないのが連邦流……あるいは、タルタル流ということなのか。

「うわあ! その杖!」
 私が近づいていくと、大魔道士は跳ね菓子のようにぽーんと飛び上がった。
「呪術の杖! ということは、ぼくの悩みも解決ゥ!?」

 残念ながらそうなのである。いよいよ院長には、帰国の覚悟を固めて貰わねばならない。

「それがさァ……」
 セーダル・ゴジャルの声色は冴えない。
「ウィンダスの空気が恋しくないわけじゃないんだけどさぁ……ちょっと帰りにくいんだよね……」

 何か事情がありそうだ。私は細かく聞いてみることにした。

「多分、モレノ・トエノあたりから聞いてると思うけど……コル・モル博士がいるでしょ。あの人、院のお金つかいこんじゃってるんだよね。まあ最近――て言っても、ぼくが国を出る頃ね――ちょっとずつは返してくれてたんだけどさ。
 その返すようになったきっかけって、あの人の文通相手なの。モジジちゃんって言うんだけど、知ってる? 博士が言いふらしているから、もしかしたら有名かもしれないね。
 ぶっちゃけた話をするけど……あのモジジちゃんって、実は」

 セーダル・ゴジャルは自分の、黒い鼻を指差してみせた。
「ぼくなんだよね」


 一同そろって、「げえっ」と言った。いくら何でもぶっちゃけ過ぎだ! 何でわざわざダボイまで来といて、禁断の師弟愛を聞かされなくてはならないのか。

「話は最後まで聞くもんだよ、きみ」
 セーダル・ゴジャルがぶうーと頬を膨らませた。

「そういうことじゃないよ。モジジちゃんを名乗ってさぁ、ファンレター書いてみたんだよね。博士、女の子の言うことなら聞くかもって。まあ半信半疑だったんだけど。

 それがさぁ……効果的どころか、もう効き目バツグンでね。手紙を出すたびに、ちょっとずつ確実に返してくれるわけ。それで止めるに止めれなくて。そのうち心苦しくなってきて、博士の顔見るだけで、お腹がキリキリ痛むようになっちゃったんだよね。こりゃ深刻な職業病というわけだね。

 そういう理由で、静養旅行に出たのもつかの間、ここでこんなことに巻き込まれちゃったわけ。まあ帰りづらかったからさ、ちょうど良かったといえばそうなんだけど。

 悪いけど、今はまだ離れられない。サンドリアの援軍が来たら帰る。約束するよ。モレノ・トエノにはそう伝えといてちょうだい。それから、魔法人形はもう使わないでね。えいっ」

 きゅーというしぼんだ悲鳴をあげたきり、みつけるくんは動かなくなった。最後に私は、ひとつだけ残った疑問を尋ねてみた。

「……え? モジジちゃんの手紙がまだ来てる? そりゃおかしいな。ぼくは書いてないよ。何しろそのためにウィンダスを出てきたんだからさ……何かの間違いじゃないの?」


「そういうわけでしたか」
 ミッションの不手際を責められるかもしれない、と覚悟はしていた。何しろ院長を連れて帰れなかったのだから。しかしモレノ・トエノは、物分りのよさを見せた。「ならば、仕方ありませんねえ……」と言いながら、みつけるくんを受け取った。魔力を吸い取られているので、もううんともすんとも喋ることはない。

「これが誤作動を起こしたといいましたね」
 私は頷いた。そう、ロ・メーヴにおいてである。何故かはわからないが……。

「みつけるくんは、院長の指輪が持っている、星月の力に反応するように出来ているのです。もし誤作動を起こしたとすると、セーダル・ゴジャル院長の指輪より、もっと強力な同種のエネルギーが、放出されていたと考えられますね。
 “塊だ”と言ったそうですが……」

(アレ ハ カタマリ ダ!!!)

「星月の力の塊とは、奇態な……そんな生物が、いるとも思えませんが……やっぱり故障なのか……」

 モレノ・トエノは椅子に座って、みつけるくんを検分し始めた。引っ張ったり、逆さにひっくり返したり、ぐらぐらと揺すってみたり。あんまりそれに熱中しているので、帰っていいのかどうかもわからないが、彼が次の話を始めないのだから、ミッション完了と考えていいのだろう。

「ああそれと、モジジちゃんの件……」
 モレノ・トエノは、つぶやくように言った。

「セーダル・ゴジャル氏が失踪して、手紙が届かなくなったころ、コル・モル博士が無残に落胆し、顔色たるやナスビ色になった時期がありました……。
 そのとき、奇しくも……セーダル・ゴジャル氏と同じことを……誰かが考えた、と答えるに留めておきましょう……」


(06.06.23)
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