その457

キルトログ、外ホルトト遺跡に出撃する

 サルタバルタ平原には、東西合わせて6つの魔法塔がそびえている。そのうち外ホルトト遺跡は、北東、南東、南西、北西の四隅に位置する塔の地下から繋がっており、残りふたつから入れる内ホルトト遺跡とは独立している。すなわち構造的には、ひとつの遺跡の周辺を、もうひとつの遺跡が取り囲んでいるわけだ。だからこそ内と外という名称が使われているのである。

 これまで冒険者が訪れていたのは、もっぱら内ホルトトであった。アジド・マルジドの魔法実験が行われたのはこちらであるし、トライマライ水路に直結しているため、鍛錬目的の出入りも多かった。これは少し意外な事実だ。我々は遺跡の3分の2をほぼ無視してきたことになる。外ホルトトへの注意が甘かったからこそ、野良カーディアンたちが集結してしまったのか。あるいは、奴らの巣窟になってしまったからこそ、容易に近づくことが出来なかったのか。おそらく両方だろう。相互に因果関係が絡み合ったため、カカシどもに付け入る隙を許し、今回のような事態を招いてしまったものと思われる。

 私はいろんな友達に声をかけた。同じウィンダス国籍である、白魔道士のLeesha、黒魔道士のApricot、召喚士のLandsendは言うに及ばない。他国からの助っ人もあった。ナイトのSif、戦士のRagnarok、モンクのLibrossは、頼りになる実力の持ち主だし、信頼できる仲間だ。今回はApricotの友達、タルタル忍者のPasta(パスタ)氏も同伴した。外ホルトトにカカシ退治に行くのだというと、皆ふたつ返事で協力してくれた。いずれも一騎当千のつわものたちである。猛者が8人も揃っているのだから、容易にカーディアンたちに後れをとろうはずもない。

 カーディアンの殲滅を表向きの理由に掲げたが、真実に関しては誰にも黙っていた。セミ・ラフィーナが現在持っているはずの、口の院の指輪が欲しい。そのために私は、友を利用しなければならなかった。すべてを打ち明け共闘できた、闇の王やジラートどもとの決戦とは違う。ウィンダス人としての自分が、自分を苦しめ、ふたつに引き裂いていく。ザイドはいみじくも言ったものだ。我々はまだ国と種族に縛られている、それこそが、祝福されたヴァナ・ディールの現実なのであると。



 遺跡を進むうち、通路は天然洞窟へと繋がった。道はすぐに、南北にまっすぐ続く石壁に突き当たった。アーチ状の出入り口らしきものがあるが、壁でふさがっている。扉でなく上下に動くのだ。内ホルトト遺跡でも同様の仕掛けを見たことがある。

 中に入ろうとしたら、カーディアンが2体、突然に飛び出してきた。 

 戦闘の準備は整っていた。我々は、クイーン・オブ・ソーズと、クイーン・オブ・コインズを迎え撃った。前者が杖で打ちかかってきたので、危うく斧で受け止めた。一瞬ひやりとした。思ったより鋭い攻撃である。こいつらはクイーンなのだから、カーディアンでもひとかどのクラスなわけだ。油断していると思わぬ不覚を取るはめになるだろう。

 油断すればであるが。

 Ragnarokがソーズを挑発して、壁に沿って奴を釣り出してくれた。LibrossがRagnarokのサポートに回った。彼らが一体を引きずり回してくれている間、我々はコインズの方に専念した。あなどれないレベルの敵とはいえ、さすがに多勢に無勢、コインズは無残に破壊されて動かなくなった。Ragnarokが連れ戻ってきたもう一体も、数分後に同じ運命を辿った。完璧すぎるほどの勝利である。

 私は戦闘中も壁の方に注意を向けていたが、カーディアンたちの新手は現れなかった。斧をベルトにしまってから、奴らは衛兵、単なる見張りだったのかもしれぬ、と考えた。だとすれば2体だけなのも納得がいく。クイーンともなると相当の強さだから、一般には2体を配置していれば十分だろう。

 だが、クイーンを見張りに立たせてまで、奴らがやろうとしている事とは……。

 私は急いで壁を持ち上げ、中へ入った。道は広かったが暗く、闇が身を隠すのを助けてくれた。緑色の灯りが遠くから差し込んでいた。足音をさせないように近づいていくと、電気の鈍くはぜるような音とともに、「ぐあああああ!」という、苦悶にのたうつ声が聞こえてきた。聴き間違えることはない、呻いているのは女だ。遺跡の暗闇に陰々と声が響く。赤子の泣き声にも、猫の威嚇する声にも似て聞こえる。おそらく彼女は……。

 エース・カーディアンが集結していた。6体のカカシたちが円陣を組み、杖を振り上げた格好で静止している。奴らの得物からは、バチバチとエネルギーが弾けていて、それらがひとつに溶け合い、円陣の中央に注がれているのだ。苦しみの声はその辺りから聞こえた。カカシどものずんぐりした胴体の隙間から、白い装束と尻尾がほの見えた。ミスラ守護戦士の鎧である。

「誰にも邪魔はさせぬ」
「この塔はカーディアンの国」
「お前たちすべてを無に帰す」
「我らは王を頂いた」
「王は気高く、強く、美しい」
「我らは王のもとで、輝かしい未来を築き上げるのだ」

 セミ・ラフィーナが、ふー、ふー、ふーと断続的に息を吐いた。このような状態にあって、殊勝にも彼女は笑っているらしい。
「小癪な、操りものの分際で……」
 ただでさえ私の位置からは遠かったうえ、彼女の声はすっかり擦れてしまっており、耳をそば立たせないと聞こえないほどであった。
「ゾンパ・ジッパが生きていたというのか? 元手の院院長、アジド・マルジドの父……ふん。反逆者の血は争えぬものだ」

 カーディアンたちから、けらけらという声が漏れた。奴らは笑っているのだ。心の底からおかしくてたまらぬという態で、そのあまりにも自然な反応に、私はうすら寒いものを覚えた。奴らがここまで「人間」であったとは!

「笑止」
「ゾンパ・ジッパだと」
「とても愚かで、罪深い……」
「奴は醜い道化師に過ぎぬ」
「元より、王に比べるべくもない」

「さあ見るがよい、我らの本当のあるじを」

 カーディアンが円陣を解いた。同時に、セミ・ラフィーナが責め苦から解放された。彼女は「うっ」と小さく呻き、床に転がった。死んだのか、と一瞬身を固くしたが、セミ・ラフィーナはうつ伏したまま、肩で荒い呼吸を続けている。体力はまだ持っているようだ。だがこのままでは、早晩命を無くしてしまうだろう。どうにかして救出せねばならぬ。

 柱の陰で私はためらっていた。セミ・ラフィーナは絶体絶命。かといって下手な行動を取ってしまえば、私の命も危ない。このまま成り行きを見守るか、ゆっくり後退して仲間を連れて来るのがよいか。

 そのとき、一体のカーディアンが、闇からゆっくりと進み出てきた……。

「王よ」 

 6体のカーディアンが声を合わせて、静かに頭を垂れた。ジョーカーは右手を挙げてこれを制した。彼は小さな車輪の音を、きこりきこりと響かせながら、セミ・ラフィーナの元へ近寄った。彼女は首を少し傾けて、カカシたちの気高き王を確認したが、すぐに力を抜いた。もはやそれだけの気力しか残っていないかのようである。

「これは、王の間に足を踏み入れた不届き者」

 エースの一人が説明したが、ジョーカーは何も答えない。

「これ以上、余計な邪魔の入らぬうちに、処分をした方がよろしかろうと存じます。あの」

 エースは杖を取り上げて、躊躇することなく、まっすぐ私の方を指した。

「柱の陰に隠れております、闖入者とともに」


 カカシどもが一斉にこちらを見つめた。私の心臓が凍りついた……嗚呼! セミ・ラフィーナを救出するどころではない。いまや、私の命まで風前の灯火なのだ。


(06.08.06)
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