その225

キルトログ、騎士最終試験を受ける(2)

 私はダボイに向かっている。傍らにはLeeshaがいて、その隣にはSteelbearが、チョコボの振動に巨体を揺らしている。紅蓮の炎を思わせる衣装は、ひときわ見目鮮やかだ。赤魔道士の専用装備は、魔道士ながらに剣士としての性格も持つ、このジョブの特質をうまく表現している。腰から下げた細身の長剣がよく似合う。白い羽根の立ったつば広の帽子を被ると、私のような重戦士よりも、よっぽどさまになって見えるのだから不思議だ。

 私が騎士最終試験に臨むというのを、どこからか耳ざとく聞きつけて、同行を願い出た冒険者があった(注1)。ダボイの入り口で待っているという。

 彼はWalden(ウォルデン)という名のエルヴァーンで、私の記録を読んでくれているらしい。「一体Kiltrogとはどのようなガルカであるか」と興味を覚えたのだろう。私よりレベルは少し上の戦士で、前垂の赤い、サンドリア製の鎖帷子を着ている。互いに面識はない筈なのに、LeeshaやSteelbearのことは、皆まで説明しなくとも十分に知っている様子だ。よほど私の書いたものを細かく見てくれているに違いない。ありがたいありがたい。


ダボイの入り口にて

 宵闇が迫っていた。我々は隊列を組んでダボイに踏み込んだ。たった4人で侵入するというのは本来無謀であるが、何も大将を討ち取りにいくわけではない。隠密のように進むのだから、人数はむしろ少ない方が都合がいいのだ。

 ダボイは水が豊富で、村内を幾本もの谷川が走っている。もともとのどかな土地だったということは、景色を見ていれば判る――オークさえいなかったら! さすがに私も成長したらしくて、入り口近くの奴らは、私を見ても襲いかかってはこない。だが安心は出来ぬ。少しでも強いものが現れ、私に戦いを挑んできた場合、それまでの臆病風は何処へやら、オークどもは続々と輪に加わり、我々を八つ裂きにするだろう。確かにSteelbearはずば抜けて強いのだが、余計ないざこざは避けるに越したことはない。

 そこで、SteelbearとLeeshaの魔法を使って、足音を消し、姿を隠して、川の中を進んでいく。山水は冷たく腰の高さまである。私の眼前をWaldenがゆく――姿が見えなくても、水面に波紋が広がっていくのだ。崖が高いので獣人に見つかる恐れは薄いが、凶暴な魚が泳いでいることもあるから、緊張感は常に持っていなくてはならない。
 
 崖上には時に木製の大がかりな装置が覗く。オークどもが無い知恵を絞り、不器用な両手で組み上げた施設だろう。何気なく見上げていると、その向こうに建物の影を見とめた。くすんではいるが石壁で、あかね色の煉瓦と、白い枠のついた窓が、崖の下からでもはっきりと窺える。地図によれば、いま我々が差しかかっているのは、ちょうどエリア中央部らしい。おおかたこの村が陥落する時に放置された、教会か修道館といったところだろう。


教会?

「あの建物の中が見たいものだ」と私は呟いた。こっそり撮影を済ませたことを知って、Waldenが呆れたような顔をした。今回の探索では、教会はルートの中に入っていない。強くなったらぜひ来たい、と言ったら、ずいぶん先のことになりますよ、とLeeshaが釘を指した。このダボイは、ゲルスバ砦など問題にならないほど、強いオークたちがうようよしている。何十年か前は、平和な山村だったのに、現在はオーク軍の大本営と言っても過言ではないくらいだ。

「上陸しますよ」

 Steelbearの先導で左岸に上がった。再び魔法ですり抜けて、オークどもをやり過ごし、奥へ向かう。通路が徐々に狭くなり、やがて袋小路となった。ふちの崩れた粗末な古井戸が口を開けており、傍らで不細工なスライムが身体をひくつかせている。


古井戸
 
 ここはダボイの南南西、天空図で説明するところの、ちょうどボム座が鎮座する位置にあたる。Steelbearが井戸を指差す。「あなたはこれを調べて」と言いながら、腰の剣をすらりと抜く。「我々はこれを片付けます」

 粘液質の肉塊に、彼らが武器を振り下ろしている間、私は井戸を覗き込んだ。思ったよりもずっと浅い。何か光ったような気がしたので、手を伸ばして拾い上げてみる。剣の柄である。ぼろぼろに錆びていて、刃の部分はもう腐り落ちている。私は鑑定の素人であるが、柄は丁寧な彫り物が施されていて、以前はさぞかし名品であったのだろう、と思わせる。サンドリア人のものなら業物で当然だ。何しろ剣は騎士の魂ともいうべきものだから。

 放置しておくのは忍びないと、私はそれを拾い上げて、懐へ入れた。井戸を詳細に調べたが、真っ暗で中がよく見えない。太陽は既に南中しており、陽光が真上から我々をじりじりと照りつける。このままじっとしていれば、またスライムが現れて、厄介なことになるだろう、とWaldenが忠告する。我々は場所を動いた。このまま魔法で脱出しようか、と言ったら、Leeshaが叱責するように叫んだ。「オークの黄金マスク!」

 私は、そうだった、と額をぺちんと叩いた。オークの黄金マスクを入手して、天晶堂に持って行かねばならない。時計塔の油と交換して貰って、整備士ガルムートに渡すのだ(その144参照)。黄金マスクについて調べたところ、ここダボイのオークが持っていることが判明した。一人でおいそれと来れるような場所ではない。仲間のいる今が、アイテム入手のチャンスかもしれない。

 柵の内側にいたオーキシュ・トルーパーに戦いを挑んだ。血色の悪いオークが、奴の後ろから石弓を撃ってくる。こいつが丁度良いレベルの敵だったので、トルーパーもおおかたそんなものだろうとたかを括っていた。斧を打ち合わせてわかった。強い! 私やWaldenの攻撃は、ことごとく空を切る。そこへ行くとSteelbearは大したものである。余裕で奴の攻撃を受け止め、鋭い突きで応酬する。それでもときおり深手を負うこともあって、私はあっと心配の声を上げるのだが、彼は涼しい顔で笑っている。トルーパーは一人で倒すこともあるから、きっと大丈夫だというのだ。

 形勢は徐々にSteelbearに傾き、やがて勝敗の行方が明らかとなった。トルーパーは必死に頑張っていたが、急所に一撃を食らって、遂にどさっと倒れた。弓を撃っていたオークは雑魚で、たちまちのうちに我々に切り捨てられた。黄金マスクが出なかったのが残念である。この戦いは、私とWaldenのレベルが明らかに足りないせいで、分が悪かった。Steelbearにかかる負担が大きすぎる。またパーティを連れてきて入手しよう、と私は言った。Steelbearの回復後、我々はデジョンでダボイを脱出した。

 
 私はバラシエルのもとへ向かった。剣の柄を見せると、彼は満足そうに頷く。認可状と餞別のカイトシールドをくれた。私はとうとうナイトの資格を得た! 飛び上がって喜んだ。

 バラシエル氏が相好を崩したのもつかの間、言葉少なに私を祝福したのち、再び仏頂面に戻ってしまった。資格を得た者にはもう用事がないらしい。彼の笑顔は、次なる騎士志望者に取って置かれる。私もささやかながら、私の後を継ぐ人たちに声援を贈りたい。

(04.02.01)
Copyright (C) 2004 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送