その240

キルトログ、ジャグナーで滝を見る

 アイアンハート親娘の碑文集めが滞っている。残るはわずか4箇所なのだが、何でもバタリア丘陵とソロムグ原野のは、ひどく難易度が高い位置にあるそうだ。だから何となく後回しになっていたのだが、町長は報酬として、金銭だけではなく、クロウラーの巣地図も用意しているらしい。難しすぎるからだろうか、前述の2箇所は不問であるという。だから頑張って、ロランベリー耕地まで出かけてきた。

 ロランベリー耕地の石碑は、同地の南東に立っている。例によってサーメット質の「背骨」が地面から盛り上がっており、近くを徘徊しているエビル・ウェポンに見つからぬよう、崖と骨との間をすり抜けていく。木の実の絵が彫られた石碑を覗いていると、真後からグゥーブーに覗かれて驚かされた。だがモンスターは魯鈍な様子で立ちつくしている。私は意識してなかったが、こいつらとは既に相当の実力差が開いているのだ。


 暖かいガルーダ風が吹く、この地では、ロランベリーという果実が、広大な果樹園で栽培されている。爽やかな甘味とぴりりとした刺激的な酸味が下に残る独特の味だが、食後の清涼感もあって、ガルカ族以外の多くの人々に愛されている。

 その魅力たるや、肉食中心の獣人ですら惹きつけ、最近ではゴブリンの夜盗やヤグードの窃盗団と戦うため、どの畑でも果実衛兵が雇われ、巡回警備している有様だ。

 中でも、価値のあるのは、蟲が貯蓄した果実だ。彼らは保存のために特殊な唾液を注入する。ロランベリーは腐らなくなり、酸味だけが増すのだ。その強烈な刺激が、マニアにはたまらないらしい。

 この果実収穫と海運で莫大な財を成したジュノ村は今、都市国家へと急速に変貌しつつあるようだ。

天晶暦757年 グィンハム・アイアンハート

 地図を入手するまでは残り1箇所となった。ジャグナー森林である。今度は妻もついてくる――とはいえ、危険の度合いは、ロランベリー耕地の方がはるかに高いのだが。

 ジャグナーの石碑は南、ダボイに近い位置にあると聞いている。オークの巣窟から流れ出ているふたすじの川が、ジャグナーの中央で合流し、最北で巨大な湖へと流れ込んでいる。この湖は、以前にLeeshaと西岸から観賞したことがあった(その208参照)。石碑は二本の川の源流で見つかるに違いない。私はそう見当をつけて、妻を連れて渓流を遡っていった。


 ロンフォールの森などに比べると、ジャグナーはずっと原生林に近い。人の手があまり入っていないことは、川の随所にかかっている橋でわかる。単に丸木や石を倒したものばかりで、いずれもすっかり苔むしている。同地は湿気が多く、道しるべの表面もすぐに汚れてしまう。ジャグナーの道標掃除は冒険者のこづかい稼ぎになっているが、要は一般人でこんなところに来る者はいないのだ。ジャグナーはダボイに近く、野生の虎もいる。危険を賭してまで開発する価値はないというわけだ。姿を見るのは冒険者くらいであるが、彼らにしたところでチョコボに乗って駆け抜けていく者が大半なのである。

 つるつると滑りそうな丸木を渡って南下すると、霧しぶきの向こうに、崖から白く糸を引く、美しい滝の姿を見とめた。思わず二人で「きれい!」と声を漏らす。Leeshaがドレスを着て前に立ち、私に向けて手を振った。どうやらこの人は平時にでも花嫁衣裳を携帯しているものとみえる。


糸を引く滝

 私たちは石碑を探したのであるが、それらしい岩はない。しばしばモニュメントの隠れていることがある、洞窟の入り口も見当たらない。どうやらもう一本の川と間違えたのではないか、ということになって、私は道を引き返した。妻はぶうぶうと言いながらついてくる。それでも綺麗な滝を見られたのは収穫である。冒険の成否に関係しないこんな場所には、やはり我々でもなかなか来ないものだからだ。

 もう一本の川の突き当たりにも滝があった。こちらは先ほどと比べてずいぶん勢いがあり、放物線を描いて滝壺を叩いている。綺麗に澄んだ水が紫色に輝く。ためしにLeeshaが釣り糸を垂れると、ヒカリマスが一匹針にかかった。



 べとべとした菌糸を伸ばして群生しているきのこの向こうに、洞窟の入り口が見えて、二匹の虎がうなり声を上げていた。ねぐらなのだろう。彼らを無視して奥へ進むと、案の定石碑がそこに立っていた。私はすかさず粘土を押し付け型を取った。以下がその全文である。

 昼なお暗い鬱蒼としたジャグナー森林を横断中、突然、食いしん坊な私の愛鳥モルテンが地面を突き始め、あるキノコを掘り当てた。

 いやがるモルテンをなだめながら、そのキノコを取り上げてよく見ると、なんとそれは伝説の食材『キングトリュフ』だった。

 モルテンの嗅覚を頼りに辺りを探してみると、他にもあるわあるわ。様々なキノコを発見することができた。

 今夜は美味しいキノコ鍋にありつけることだろう。

 いつの日か、森に迷い込み、腹をすかせた旅人よ。森の恵みを探したまえ。さすれば、汝は救われよう。

 ただし、先に汝のチョコボに食べられぬよう、くれぐれも御用心。

天晶755年 グィンハム・アイアンハート 
   

 これらの成果をセルビナ町長に報告すると、クロウラーの巣地図をくれた。これで同地の鍛錬にも臆することはない。バタリアとソロムグが後回しでいいと知っていたら、もっと早く入手することが出来たものを。

(04.03.15)
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