その313

キルトログ、三つの氷石を拾う

 正直いって、マートの爺さんには会いたくない。彼は私の師である。50レベルを越えるときにはお世話になった(その293参照)。彼の出す課題は、強さの壁をうち破るためのもので、冒険者生命に直接かかってくるのだけれど、目的の効果を得るために、確かにその課題が必要なのか――ということが見えにくい。しかも単独遂行はほぼ不可能である。だから友人や助っ人の力を借りるわけだが、それはそれでズルなのではないかという後ろめたさがある。私がマート翁に会いたくないのは、課題の達成感の薄さと、何よりも――何度も何度もこの老人を訪ねて、課題を受けなければいけないという、窮屈な義務感からである。


 某月某日。人外境ザルカバードは、灰色の厚い雲のもと、舞い散る雪の音さえ聞こえそうな静寂下にあり。14人が黒い影となって雪原を行く。5人の課題者と、彼らを守る9人の助っ人である。助っ人が先導するのは、古代のけものが住むという謎の洞窟。怪物は恐ろしい強さを誇るうえに、インビジやスニークのまやかしが一切きかぬという。

 マート翁いわく、
「魔物の洞窟の奥にある、三つの氷石を取って来るがいい。今度の課題は頭を使うぞ……冒険者には知性も要求される。わかるかな」

 わかるどころか! 我々は知性どころか、魔物を力で押し切ろうとしているのだ。これもまた師の愛情を裏切るものではないか、と考えると、心苦しい気持ちがする。

 雪原には、緑色の皮膚の巨人や、パルブロ鉱山のドラゴン戦で捨て台詞を吐いた、一つ目の翼まくらなどが立ちふさがる。インビジとスニークで避けることができるが、助っ人は奴らを恐れるレベルではなく、片っ端からぶちのめして進む。索敵を視覚に頼るようなやつは、真っ先にやられた(注1)。このとき、悪魔のようなモンスターを見かけたのだが、奴らデーモン族とは、闇の王の居城、ズヴァール城にて再び出会うことになる。


巨人を倒していく……

 南下を続けていると、洞窟の入り口が見えてきた。ダンジョンのように大規模なものではないらしい。行き止まりの壁が見え、その手前に、墨のようなけものがうずくまっている。けものは生き物の気配に敏感だから、決して近寄らないようにと注意を受けた矢先、突然に奴は身を起こし、襲いかかってきた! 我々は得物を抜き、恐るべきボーリエル・ハウンドに応戦を始める。


 古代獣追討の決死隊、その助っ人は以下の通りである。

戦士74レベルのRagnarok
ナイト75レベルのSif
ナイト62レベルのIllvest
モンク75レベルのRandsend
狩人75レベルのUrizane
獣使い75レベルのRuell
獣使い65レベルのRodin
赤魔道士75レベルのSteelbear
白魔道士58レベルのGoras

 さすがの古代獣も、猛者たちの拳、斧と剣には太刀打ちできず、たちまちなますにされてしまう。洞窟の奥、突き当たりの辺りから、石の転がるような音が聞こえる。我々は駆けていって、雪のくぼみに六角形の氷石を見つける。人数分きっちりの5つ。そのうち2つは私たち夫婦。残りの3つは、マート翁から同じ課題を命ぜられた冒険者――いわば同門弟子のものである。

「はやくはやく!」と我々をせかす声がする。私が氷石を拾って駆け戻り、振り返ってみると、先ほど倒したばかりのはずの古代獣が、尻尾を上げてうろうろと歩き回っている。ぞっとした。古代獣は蘇生能力が高く、氷石を手に入れるのに戸惑っていると、こちらが八つ裂きにされてしまうのだ。

古代獣が襲いくる!

 古代獣の出る洞窟は3箇所。ひとつは南、もうふたつは北にある。ボーラル・タイガーボーラル・クアールが潜んでいて、それぞれ丸い氷石四角い氷石を守っている。けものに見つけられた一回目の教訓から、洞窟の入り口に身を伏せ、全員で襲いかかるという作戦をとった。私は一応リーダーであるから、軍配よろしく得物を振りかざし、「突撃ー!」と号令をかけた。猛者たちは鬨の声を上げて、一斉に古代獣を狙いうちする。その間に5人は奥へいき、氷石の転がる音を待って、回収ののち総員撤退と相成るわけだ。


 3つの氷石を取ってきた弟子を、マート翁は満足そうに迎えて、これでお前はまたひとつ壁を越えた、と肩を叩く。最後に嫌なことを付け加える。
「もっともまだプロローグに過ぎんがの。ほ、ほ」

 今度はいったい、何をやらされるのであろうか。


注1
「白魔道士と赤魔道士は、姿を消す魔法・インビジと、足音を消す魔法スニークが使える。これらは黒魔法ではないが、インビジでさえレベル25魔法なので、サポートジョブに白魔道士さえつけていれば、50レベル以上の黒魔道士にも使用可能である(そして、たいていの黒魔道士はそうしている)。
 インビジとスニークを重ねてかけると、古代のけもののような特例を除き、まず敵に見つかることはない。ただし、魔法の持続時間はそれぞれ一定ではない。どちらかが切れたら、再び術者が魔法をかけ直さなくてはいけない。インビジは、呪文を唱えると解けてしまうという習性がある。従って術者は、仲間にかけた術の、どちらか一方が解けてしまうたび、自分自身にもインビジを唱えなおさなくてはならない。詠唱中には術者は姿を現す。従って敵に狙われやすくなる。
 索敵を視覚に頼る敵を倒すのは、以上の理由による。一方スニークにはそういう制限がない。術を使っても効果が途切れることはない。かけられる方もいちいち「魔法の効果がもうすぐ切れそうだ」と言うのに、どっちであるかを宣言する必要はない。姿が見えるわけであるから、術者も術をかけやすい。煩雑さからは相当解放されるのである」
(Kiltrog談)

(05.01.23)
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