その378

キルトログ、怨念洞に入る
怨念洞(Den of Rancor)
 トンベリによってウガレピ寺院の地下に掘られた洞窟。
 彼らがここを掘る際、呪詛の言葉を唱えながらつるはしを振るったため、洞内の壁面には怨念が染み込んでいると云われている。
 毎夜、ここでは人間に対する復讐を誓うトンベリの決起集会が開かれており、全員が自らを傷つけて祭壇に血をかけ、怨みを新たにしている。
 寺院の謎の書斎へ行ったとき、Urizaneに念を押されたことがある。魂の絵筆を確かに取ったか、ということだ。このぼさぼさの絵筆が、ウガレピを抜けるのに大切な品である、という事実は、ジュノに帰ってから知った。

 ウガレピ寺院には、画廊の迷宮という部屋があって、いろんな絵が飾ってあるそうだ。いわば古代のギャラリーである。怨念洞へ入るには、ここで魂の絵筆を使わなければならない。何ということだ。トンベリたちの寺院は、忌み寺という風評のみならず、魂の絵筆、生贄の間へのカギ、消えたランタンなど、二重三重の壁に守られている。ギルガメッシュやマジュフォーらの例外を除き、忍び込む者が少ないのも当然といえるだろう。

 とりあえず我々は、入り口へと戻った。一回外へ出て、別のところから入りなおすのだ。外はじっとりと湿気が強く、立っているだけでむしむしとする。寺院の中は涼しいのだが、震えをもよおすような邪気に満ち満ちている。普段の私なら、絶対こんなところに入るのはごめんだ。

 だが今は、大いなる目的を有している。

 カビの匂いがする廊下が続いていた。壁にピンク色の花が咲いている。色鮮やかで綺麗なものだったが、花が寺院の壁を食い、侵食しているという事実と、この建物の空気のせいで、妙に毒々しい、禍々しいものに見えた。ここは流砂洞に似ている。砂によって侵される故郷。花によって崩される寺院。


通路の両脇に花が

 おおよその獣人基地がそうであるが、手前にいる獣人ほど弱く、奥にいる獣人ほど強い。トンベリたちも例外ではない。我々は途中まで姿を隠さず、堂々と通路を進んだのだが、途中から奴らの実力が上がりだして、戦いを仕掛けてくる者も出始めたので、インビジやスニークを使うことになった。

 それにしても、寺院にもいろいろなモンスターがいる。オポオポやハチはともかく、クアールが闊歩しているのにはびっくりした。外から迷い込んできたのだろうか。トンベリが無視しているところをみると、奴らは少なくとも、無理にクアールを追い出そうとまでは思っていないようだ。宗教の邪魔にはならないのか、それとも単に面倒だからか。

 いずれにせよ、我々の手間は増える。インビジとスニークがかかっている間は、こちらから戦闘を仕掛けることはまずない。だが画廊の迷宮とやらの手前になると、怨念洞へ入るのに手順がいるとのことで、少し足踏みをしなければならない。仲間が魂の絵筆を使うあいだに、我々は護衛の意味で、周辺を歩いているトンベリを片付ける。せっかく祓ってもらったのに、またぞろ恨みが蓄積しそうである。

 幸いなことに――不幸なことに、というか――少々楽しみにしていた「画廊の迷宮」を、じっくり見学することは出来なかった。どうやったのかは知らないが、Landsendが絵筆を使って、怨念洞への入り口を開いたのだ。さあこっちですよ、と彼が言った。入り口が開く時間は短いと聞く。彼が必死に手招きをするものだから、私もさっとその“入り口”に飛び込んだ。これによって、じっくり絵を見学する機会は失われた。トンベリと戦うのに必死で、さっきまでいた部屋が、当の「画廊の迷宮」であったことにすら気づいてなかったのである。


 いずれにせよ、引き返すことはもう無理だった。魔法の関係だろう、ここは一方通行である。我々は奥に進むしかない。機会があればまた来ることもあるだろう――生きて帰れればだが。
 目の前に、暗い洞窟が広がっている。岩肌が赤黒く光っていて、なま暖かい風がゆっくりと吹いている。
 私はごくりと唾を飲んだ。
 Leeshaたちの魔力の回復が終わり、我々は前に進んだ。すぐさま広場にぶつかる。その中央には天幕が下がっていて、蛸のように四肢ならぬ八肢を広げている。真下に小さな石灯籠のようなものがあり、ランタンがいっぱいぶら下がっている。天幕の布地はクリーム色で、南方伝来の絨毯のような模様が、赤色で浮かび上がっている。トンベリたちが呪詛でも念じ込めたのか、と考えて、私は恐ろしくなった。ここには肝試しに来たことがあるが(その281参照)、今度はお遊びではない。今の緊張感はまるで違う種類のものだ。

 仲間たちが、さてどっちだったっけ、と言い出した。コンパスを見ると、我々は南に向いている。広場は長方形をしており、寺院から来た北西の道を別にすれば、北東、南、南東、東、西、南西、と、出口は6つも開いている。私は地図を持っていないから、先導してくれる仲間にそんなことを言われては、途方にくれてしまう。「右の道をどんどん行く」と答えが出てきてよかった。消えたランタンはそこで役立つという。ランタンを持っている4人組が進んだのだが、Librossも一緒についてきた。彼自身もランタンをひとつ下げている。5つも必要はないのだが、「恨みの炎は持っていても損はないからね」と彼は言う。なるほど。

 西への道は広間で行き止まりになる。中央に太い木材の柱が立っており、小さなランタンの火が、らせん状態に柱を取り囲んでいる。根元からは丸太が数本、放射状に地面に埋められている。トンベリが広場の隅にいる。私たちは注意深く柱に近寄り、丸太の上に乗って、ゆらゆらと燃えている火を手持ちのランタンに移す。これが恨みの炎である。生贄の間への扉を開くためには、恨みの炎が4つ必要なのだ。だからランタンも同数いる。恨みの火は消えることがない(!)。だから予備は必要ないのだが、Librossは自分用に移しておいた、というわけだ。またここに来たときにでも使うつもりなのだろう。


恨みの炎

 道を引き返して仲間に合流すると、今度は北東へと下っていく。生贄の間の入り口にはじきに着く。大きな扉があって、その前に4つの石灯籠が並んでいる。この灯籠に恨みの火を点せば、ウガレピ寺院の最深部に誘われる、というわけだ。

 儀式はあっけなく終わった。トンベリを避けながら点火すると、ランタンの火は失われてしまったが、地響きを立てながら扉が開いた。我々は口を開けた黒い空間の中に飛び込んだ。間髪を入れず扉が閉まっていき、戻れなくなった。道は西へ続いている。やがてまた大きな扉へ突き当たった。この先が生贄の間のようだ。

ランタンの火を灯す

 周囲にトンベリはいなかったが、代わりに冒険者の一団がいた。小声で何かを話し合っていて、我々に対し、先に行きますかと声をかけた。私は恐縮して辞退し、用事があるのならどうぞ、と答えた。彼らは鍵を使って扉を開け、奥へと踏み込んでいった。どうやら魔法陣が待っているようだ。となると戦闘になる。私は身震いした――いよいよ正念場だ。さて、怨念洞の奥で我々を待っているのは、いったいどんな化け物なのであろうか。

(05.07.17)
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