その394 キルトログ、ギルガメッシュに知恵を借りる(1) デルクフの塔から戻ってきて、私はジュノで休んだ。大公は死んだ。起きたらさぞかし大騒ぎになっているだろう、と予想したのだが、ガルムートの鐘の音で明けるジュノの朝は、まったくいつものジュノ大公国そのままであった。 人々に噂を聞いてまわった。しばらく前から大公兄弟は姿を見せぬという。どうやら大公宮では、彼らが国務を離れて、獣人対策に奔走していると説明しているようだ。今ではエシャンタールという男が大公代理となっている。彼は何者なのだろう? 諮問機関アルマターの一員なのだろうか。そういえば、ナグモラーダは今どこで何をやっているだろう。 思いは尽きないが、今の私には、やらなければいけないことがある。 ライオンは別れ際に、「父に相談する」と言い残した。今ここに来て、ギルガメッシュの助言が、どれだけ役に立つかはわからぬ。しかし彼には、ウガレピ寺院のグラビトン・ベリサーチの先例がある。海賊の情報収集能力は優れている。彼自身カンも良い。何か、手がかりを見つけてくれるかもしれない。 私はノーグに到着した。樫の扉を開けると、懐かしいギルガメッシュが、難しい顔をして腕組みをしていた。 「よう旦那」と低い声で言う。 傍らにライオンが、寄り添うように立っている。左側の本棚の前には、ひどく背中の曲がった、皺だらけの老人が控えている。
「デルクフの話は聞いたぜ、旦那。ウガレピ寺院でうまくやったはいいが、また面倒な展開になっちまったようだな」 「Kiltrogを責めないで」とライオン。 「彼らはよくやったわ。王子の一人を倒したんだもの。それに、まるっきり最悪というわけでもないの。エルドナーシュ自ら、行き先を告げていってくれたおかげでね」 「その通り」 私は頷いたが、気分がちっとも晴れなかった。 「奴は、ロ・メーヴで光の洗礼を受けろ、と言った。そうすればトゥー・リアへ来ることができるだろうと」 「罠かもしれんぞ」 「それでも、唯一の手がかりよ」 「ふむ、カムイ」 ギルガメッシュは、本棚の老人に声をかけた。 「ロ・メーヴという地名について、何かわかることはあるか」 カムイと呼ばれた老人が、慇懃に進み出た。 「そうですな」と、うがいをしているような声で答えた。 「ミンダルシア大陸の北端、聖地ジ・タと呼ばれる荒地に、古い廃墟が一つだけ残っております。そのひとつがロ・メーヴと呼ばれていたはず」 「ロ・メーヴには、行ったことがある」 私が言うと、3人はどきりと身を震わせた。 「滅びの神殿ですぞ!」 老人の驚きようが、とりわけ酷かった。彼は、死神を見るような眼で私を睨み、ひいひいと言いながら本棚の方へ後ずさった。 「神経のまともな者なら、決して近づかないと言われております! そんなところにずかずか入っていったとは! 何という、恐ろしい……」 「カムイ、黙って」 ライオンがぴしゃりと言った。 「Kiltrog、確かにその、ロ・メーヴに行ったのね? エルドナーシュが言っていた……」 「間違いないと思う。ロ・メーヴが他にあるなら別だが」 「さすがは旦那だ」 ギルガメッシュが、両手を擦り合わせた。 「それで、洗礼とやらを受けられる場所はあるのかい」 「正直なところ、あそこには何もない」 ライオンとギルガメッシュが、目に見えて落胆するのがわかった。カムイは露骨に私を避けて、本棚の物陰に入り、軽蔑に満ちた目でちろちろとこちらを眺めやっている。 私は、冷静に事実を述べた。 「ロ・メーヴは古代の廃城だ。機械じかけの巨大な人形と、宙に浮く壷、そしてボムが徘徊している。そこを通り抜けていくと、神々の間という広間に出る。そこには女神アルタナと、男神プロマシアの巨像が飾られており、たぶん暁の巫女だと思うが、その石像が立ち並び、両神を補佐している……」 私は言葉を切った。ギルガメッシュは、じりじりと焦らされているのだと思ったらしく、苛々した声で言った。 「それで?」 私は肩をすくめた。 「旦那、その広間で行き止まりかい?」 「神々の間の奥には、上り階段がある。おそらくあそこから、トゥー・リアに行けるのだろう……」 「何だ!」 ギルガメッシュ親娘が、同時に相好を崩した。 「何だ! 脅かしやがって! 旦那、あんたも人が悪い……それじゃ、行けるんだな? エルドナーシュのところへ?」 私は黙っていた。 「Kiltrog……?」 ライオンが眉を曇らせた。 私は思い出していた。Ragnarokを送ったときの、神々の間の荘厳さを。我々は女神像を潜って奥まで行き、確かに階段を見つけたのだ。だが私は、そのことについて何も触れなかった(その184参照)。なぜなら、触れる必要はなかったからだ。我々にとって、そこは行き止まりも同然だったのだから。 「ギルガメッシュ、あそこを通るのは……無理だ」 私は努めて、淡々と話した。 「サーメットの格子が邪魔をしているのだ。それは、扉ではない。上にも、横にもスライドしない。そもそも、格子にそういう亀裂がないから、あれが開くということは、物理的にどうしても考えられない。 誓ってもいい、あれは完全に壁だった。仲間といろいろ調べてみて、ある結論に達したのだ。ここは絶対に通ることが出来ない。おそらくここを通過するには、女神アルタナの、特別な加護でも必要なのであろう――と」 (05.09.04)
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