その437

キルトログ、鼻の院院長を探す(1)

 おとがめがないまま一週間が経った。神子さまは、私を裁かれるつもりはないらしい。ということは、トスカ・ポリカにも飛び火することはないだろう。小心者の彼だから、これ以上余計なことはするまい……第六の院の本をもう少し読んでみたかったが、その願いが叶うことはなさそうだ。
 少々残念な気がする。白き書は変わらず、私の背嚢に入っている。


 長く国を留守にしていたので、ミッションの要請がたまっている。ラコ・ブーマに言われて、今度は鼻の院にやって来た。「リーペ・ホッペに話を聞け、とあるよ」と彼女。私は何も言わなかった。ラコ・ブーマの言い方からして、ミッションの指令書を検閲しているようなのだが、これは私の考えすぎなのかもしれぬ。

 リーペ・ホッペの名を聞くのはなつかしい。ギデアスに献上品を持っていったとき、その指令を出したのが彼だった(その23参照)。ミッションを終えて報告に来たとき、リーペ・ホッペは、アジド・マルジドに相談ごとを持ちかけられていた。口の院院長はその当時から、カラハ・バルハの研究室に入りたがっていたのである。しかし彼は、念願の心の院を覗くことなく、満月の泉に下りた咎(とが)で捕えられ、今も永久牢獄で苦しんでいるのだ。


 リーペ・ホッペはやはり屋上におり、ねじくれた観葉植物に水をやっていた。私がゲートハウスから派遣されてきたと知ると、じょうろを放り出して歓迎した。
「よ、よく来てくれたッペ! 鼻の院の一大事なんだッペ!」
 何があったのです、と私。
「院長のルクススさまが、イル・クイルさまの後を追って、南へ行ってしまったんだッペ……く、詳しくは、1階の瞑想室にいるケルトトに話を聞いてもらえねえッペか? たらい回すみたいで悪いけど、ぼくが説明するよりはいいはずだッペ。
 本当はこんなところで水を撒いている場合ではないんだッペ。んでも、他に出来ることもねえし……あんたたちが頼りなんだッペ。南は怖いミスラばっかりッペよ! トンベリもいるッペよ! だいたい、院長は何でそんなとこに行ってしまったッペよ!!」


 こうるさいリーペ・ホッペとは違って、ケルトトというのは、ずいぶんとおとなしい職員だった。台座の上にすわり、両手を組み、身体を前に傾けている。大きな頭をゆらゆら前後に揺らしている……おとなしいわけだ。要するに寝てるのではないか!

「寝てるのではありません、瞑想です」
 ケルトトはよだれを拭きながら説明した。
「あたしは瞑想を使って、いろんなことを調べられるのです。ルクススさまにも信頼されているのよ。だから今回みたいな、ややこしいことになっちゃったわけだけど」

 一から説明して貰えないだろうか、と私は言った。手近な椅子に腰をおろそうとしたが、明らかに尻が入りそうにないので、仕方がないから腕組みをして立っていた。

「んーとね……北方調査隊については知ってる? ウィンダスとバストゥーク、サンドリアが共同で、北方のフェ・インを調べたの。34年も前の話だけど。
 連邦からは2名を出してね。ミスラのヨー・ラブンタさんと、もと鼻の院にいた、生物学者のイル・クイルさん。
 先日、ルクススさまがフェ・インから戻られたの。詳しいことは言えないんだけど、あるアイテムを持ち帰ってて、あたしがそれを瞑想で調べたのね。そしたら、ここよりずいぶん南の方で、イル・クイルさんの心を感じてね。その話を院長にしたら、ルクススさま、飛び出していっちゃったの。それ以来、何の連絡もなく、消息もわからないのよ。
 南へ行ったと思うんだけど、せっかくフェ・インなんて危険なとこから戻ってきたのに、っていうことでね。職員一同心配してるの。万一のことがあってはいけないと、リーペ・ホッペが、天の塔に腕の立つ冒険者を要請したってわけよ」
 
「大体はわかった」
 私は右手を上げた。「二、三質問が」
「どうぞ」
「心を感じたということは、イル・クイルという学者は、今も生きているってわけかな?」

「いや……そんなことないはずなのよ。調査隊の呪いって有名で、あれに参加した人たちは、みんな調査中に命を落としたり、帰国後に死んだりしたって話。イル・クイルさんだけが例外とは思えないな」
「イル・クイル氏は、ルクスス院長の何なのだろう?」
「それがわからないのよ。でも、院長の反応は尋常じゃなかったな……だって、行き先も告げずに出ていっちゃうんだよ? うちの院長はけっこうしっかりしてるから、まずそんなことはあり得ないもの」

 要するにルクススを見つけて、連れ帰ればいいわけだ。手がかりはある。私の頭の中には、すでに取るべきプランが組まれていた。
「もう一つ質問が……」
「何でしょう」
「南っていうのは、南方というわけではない?」
「だといいけどねえ」
 ケルトトは腕を組んで、
「あたしの瞑想ってのはイメージだから、だいたいでしかものを言えないところがつらいんだけど、南方の可能性は低いと思うよ。いくら院長だってアシがないもの。外洋船にでも乗っていったというなら話は別だけどね……。
 まああたしも、出来るだけ瞑想で院長を追ってみるよ。だから冒険者さんは、冒険者さんのルートで探してちょうだい。それでは……ふああ……おやすみなさい」


 飛空挺に乗り、私はカザムにやって来た。
 ウィンダスはミンダルシア大陸の最南端にある。そこより南といえば、エルシモ島しかない。ケルトトの瞑想が不確かなものである以上、ルクススと私の情報量は変わらないはずだ。私がルクススなら、まずどこへ行くか? 人が集まるところは二箇所ある。この後ノーグへ出かけるにしても、まずはカザムから聞き込みを開始するだろう。問題は誰に話を聞くかだが……。

 ジャコ・ワーコンダロは、抵抗なく会ってくれた。相変わらず無愛想ではあるが、以前より敷居が低いように感じる。ギルガメッシュと知己であるうえ、忌み寺から無事に帰ったことで、私の実力が彼女に伝わったからだろう。

「鼻の院っていうのは何だい?」
 説明に失敗した。エルシモ島のミスラが、ウィンダスのシステムを知るわけがない。私はルクススの容姿を説明した。院長の格好は冒険者とはずいぶん違う。それでなくとも、訪れてくるタルタルはそう多くはあるまい。

「きのこみたいなフードを被ったタルタルなら、このあいだ来たよ。大昔のことを聞かれたけど、私が族長になったのは、10年くらい前に過ぎないからね。私じゃ手にあまる」
 囲炉裏端にあぐらをかき、彼女は手を伸ばして、猿の背中を撫でてやった。猿がくるるる、と鳴いた。
「前の族長の家を教えてやったよ……私の恩人さ。あの人がいなければ、今の私はなかった」
「その族長を教えていただけますか?」
ロマー・ミーゴ。ただしあの人は、石みたいに寡黙だからね。隠居してからますます無口になっちまって。何が知りたいかわからないけど、行って話を聞いてきちゃどうだい?」

(06.03.22)
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