その411

キルトログ、最後の試練を受ける(2)

 偉大な戦士の証は、わりとあっけなく手に入った。テリガン岬のゴブリンが持っていたのである。見た限りではぼろぼろの巻物に過ぎぬ。マートがなぜこれを欲しがったのかは謎であるが、おそらくまた何かふかい思惑があるのだろう。

 マートは満足そうに合点合点をして巻物を受け取った。
「お前さんにしてみれば、朝飯前じゃったろうな」
 そう笑うのだが、パーティでの鍛錬中に手に入れたものである。果たして一人で入手できたかどうかわかりはしない。
 翁はくるくると戦士の証を巻きながら言った。
「どうじゃ、お前さん、わしと戦ってみんかね」


 どこからか、練武のかけ声が聞こえたような気がした。宮殿詰めの衛兵たちが鍛錬に励んでいるのだろうか。
 私はマートを見つめた。彼は巻物を握ったまま、まっすぐこちらと視線を合わせている。冗談を言っているのではない。そこに立っているのは、得体の知れぬ道楽老人ではなく、虎のようなまなざしを持つひとりの武闘家だった。私はどうして、彼が秘めていたこれほどの殺気に気づかなかったのだろう。

「わしはずいぶん冒険者とつきあいがあるが」
 マートはからからと笑ったが、まったく隙の生まれる様子はなかった。
「彼らはわしを前にして、皆いちように同じことを考えるらしい。すなわち、じじい偉そうなことをいうが、そんな課題をこなしたところで何の役に立つものか、とな。まずたいていの者が、面倒なお使いをさせられているくらいにしか考えとらん。感謝されるどころか、しばしば疎まれるし、場合によっては憎まれもするのだ。それも、わしの力なくしては殻を破ることが出来んようなひよっ子どもにじゃよ」

 恥ずかしい話だ。私は恐縮して思わずこうべを下げたが、マートは良い良いと言って小さく手を振った。
「この老いぼれぶっ殺してやると思うのは元気のある証拠じゃ。そこを嫌がるようでは教師たる資格はない。挑戦は正面から受けてやろう。証を取って来れるくらいだから、わしと拳を交える資格は十分あると考えられる。
 わしと一対一でやりあって屈服させたら合格じゃ。お前さんが培ってきた技術をすべて発揮するがよい。装備品は何を持ってきてもかまわない。薬品も好きなだけ使え。というより、おそらく何もないと勝負にはならんじゃろう。
 注意事項はふたつ。お前さんは戦士じゃから、戦士以外の技を使うことを禁じる。それと、制限時間は10分とする。10分を越えたらわしの勝ち。10分以内にわしを倒すか、参ったと言わすことができればお前さんの勝ち。どうじゃ、やるか」

 しばらく考えて、私はやりますと言った。だが急な話である。装備は何でもよいというのだから、身支度を整える時間が欲しいのだが。
「わしはここで待っておる。24時間いつでも来るがよい。楽しみで腕が鳴るよ……わしも久々に手ごわい相手とやりあえるのじゃからな。ほ、ほ」


 私はモグハウスへ帰った。マートの言ったことを思い返して、さっそく準備にとりかかる。
 まずは鎧であるが、これはホーバージョンほか、Ragnarokに貰った一式で良いだろう。問題は得物である。使い慣れた片手斧と言いたいところだが、マートは戦士の技で勝負しろと念を押した。私は日ごろ左右に一本ずつ片手斧を握っており、勢いよく二刀流でランページを放っている。ただし、「二刀流」は忍者のアビリティであって、戦士の本流から言えば邪道であり、マートのルールにおいては使用できない(注1)。むろん片手でもランページは可能なのだが、単純に考えて威力が半減してしまう。そこまでしてやはり片手斧に執着するのか。それとも別の得物を選ぶべきか。これは大きな問題だ。

 考えたすえ、私は両手斧を使うことにした。コロッサルアクスを競売で競り落としてくる。ウェポンスキルのレイジングラッシュは、巨大な刃ですばやく三度斬りつける高度な技だ。ウェポンスキルには珍しく、同じ技だけで連携が成立する。すなわち、レイジングラッシュを連続で打ち込めば、分解で余剰ダメージを与えることが出来るのだ(注2)

 むろん侍でもない限り――彼らには明鏡止水というアビリティがある(注3)――ひとりで連携を決めることは出来ない。ウェポンスキルを使用するには、TPが100以上貯まっている必要があるが、発動した瞬間にゼロになってしまうからだ。TPは物理攻撃を命中させるか、物理攻撃を受けることで徐々に貯まっていく。一方連携を決めるには、ひとつのウェポンスキルを放ったあと、数秒の間をおいて次のを放たねばならない。ゼロになったTPを数秒で100積み上げるのは無理である。この時間的な壁がある限り、一人連携は不可能だ――薬品を使わなければ。

 そう、マートは「薬品も好きなだけ使え」と言った。だから、私がイカロスウィングを持ち込んでいけない理由は何もない。
 イカロスウィングは肩の筋肉に作用する強力な薬で、一瞬で力がみなぎるという。すなわち「ゼロになったTPを一瞬で100にする」ことが出来るのである。戦士ほか前衛職にとっては、まさに夢の薬と言っていいだろう。しかもこれらは、若干高価ではあるが、競売場で手に入れることが出来るのだ。
 一人連携がこれで実現する。レイジングラッシュを放ち、イカロスウィングを服用し、再びレイジングラッシュを撃つ。連携(分解)が発動する。魔法を重ねればマジックバーストも決められるが、戦士にそれは無理だから考慮の必要はない。それよりもダメージを重くすることを考え、連携をもって確実にマート翁を仕留めることだ。

 競売所で体力回復薬をたくさん買い込んだ。山のようなハイポーション、エクスポーション。エクスポーションはハイポーションより若干回復効果の高い薬である。保険用と思って持参したのだが、Urizaneにも後で注意されたように、商品知識もないのに余計なことをするべきではなかった(もっとも、これは後に反省したことなのだが)。

 私は意気揚々と中庭に行き、準備はすべて整った、とマートに告げた。「それじゃ」とマートは戦士の証をびりびりに破り(注4)、「宮殿の周辺ではかどが立つからの。お前さんを武闘場まで連れていってやろう……そら」
 
 マートは呪文を呟いた。私の意識が宙に投げ出された。この魔法はテレポではないか。気がついたら私は、バーニングサークルの近くに立っていた。いつかギデアスの奥で見た、燃え上がる炎のような魔法陣である(その155参照)。

 周囲は薄暗く岩で囲まれている。こころなしか少し蒸し暑い。手持ちの地図を開き、どうやらここがホルレーの岩峰らしいと悟る。マートのテレポは、私を三奇岩の近くではなく、ゲルスバ砦の奥へ連れて来てしまったのだ。



 マートのような達人が魔法をかけ違えるとは考えられぬ。彼は武闘場へ案内すると言ったのだ。となると、この魔法陣の奥で彼は待っている……強力なモンスターよろしく。

 もちろん、彼ほど強い相手は他にはいない。

 私は意を決して魔法陣に踏み込んだ――相手に不足なし。私は地上最強の男をうち倒し、天空に昇り、アルタナの息子たちをこの手で殲滅するのだ。


注1
 戦士であるKiltrogが二刀流を使えるのは、忍者をサポートジョブにしているからです。マート戦はサポートジョブをつけることが出来ません(戦闘が始まったら勝手にはずれます)。上記の「戦士以外の技を禁じる」とはこの条件のことを指しています。

注2
 連携には収縮・衝撃・溶解・炸裂・振動・貫通・切断・硬化などの効果があります(ウェポンスキルの組み合わせによって決まります)。それぞれ闇雷火風水光土氷の属性を持ちます。レイジングラッシュ×2は分解で、雷・風の属性です。余談ですが、この連携が発動したときに同属性の攻撃魔法を重ねると(この場合はサンダー、エアロ)、敵に通常よりも大きなダメージを与えることが出来ます。これをマジックバーストといい、パーティ戦における基本戦術のひとつとなっています。
 連携とマジックバーストを詳しく述べると、それだけで何ページもの記述が必要ですので、ここでは割愛します。「レイジングラッシュ×2で連携を決めることが出来る」ということをとりあえず把握してください。
 連携に関する基本的な説明はその50を参照ください。

注3
 侍がジョブアビリティ「明鏡止水」を使用すると、ウェポンスキルを放つときの消費TPが100となります。すなわち、TPが200以上貯まっているときには、2度連続でウェポンスキルが使えます(300なら3度)。

注4
 正確には、この後に魔法陣へ入るときに破れます。

(05.11.26)
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