その448

キルトログ、みつけるくんを受け取る

 モグハウスでベッドに腰かけ、斧の手入れをしながら、先日の出来事を逡巡した。

 ジョーカーは、エースカーディアンを引き連れて去った。カーディアンが主人を得たことについては、大きな危惧がある。これまではとにもかくにも野良状態であった。そのぶん連邦への攻撃は散発的で、脅威というには未熟な勢力だったように思う。これが強力な統率を得るとなると厄介である。奴らがウィンダスに仇をなす存在とならない、その証拠というのは、ジョーカーの“人間性”と、彼がスターオニオンズに示した、いつくしみの言葉だけしかない。

 ジョーカー自身も語ったように、カーディアンは決して嘘がつけないように作られている。それを考えれば、まずは杞憂なのかもしれぬ。だが、カーディアンの暴走もまた、製作者には予期しない出来事でなかったか。奴らがスペックの呪縛から解き放たれたとしても、私には不思議だとは思えない。生命は、人間がコントロールするには手にあまる代物だ。そしてもちろんカーディアンは、心を有した第六の人類なのだから。

 そこまで考えて、私は斧をぽとりと取り落とした。
 屈んで拾い上げて、また無様にも転がしてしまった。モーグリが首を傾げてこちらを見ている。私は大丈夫だといって得物をしまった。指を動かしてみたら、かすかなこわばりがある。ぎゅっと拳を握ってみたが、右も左も、思うように力が入らなかった。

 ――限界が近づいている。


 森の区のゲートハウスに出向いた。ラコ・ブーマ隊長から、ランク8おめでとう、と賞賛されたので、素直に頭を下げた。
「カーディアンどもが、ホルトト遺跡に集結しているという報告があったぞ」
 私はどきりとした。だがRagnarokの兜、チェラータをかぶっていたおかげで、顔色の変化は気取られなかったようだ。
「何か知らないか。冒険者の間で、噂とか」
「いや……」
 ラコ・ブーマは、にっと笑って、
「だな。お前は近ごろ、ずっとウィンダスにいるのだもの。お前の耳に入るんなら、あたしたちが知ってなきゃおかしい。まあそういうわけだから、ホルトト遺跡へ行くときは注意するように」
 そんな機会があるとは思えないが、礼を述べておいた。彼女と心やすくなれば、カーディアンの情報も手に入るかもしれぬ。
「ところでKiltrog。次のミッションなのだ。疲れているところ悪いが、耳の院から依頼が来ている。大至急、魔法学校に行ってくれたまえ」


 耳の院は水の区、モグハウスを出てからすぐ北へ行ったところにある。日ごろ訪ねる機会は少ないが、さすがに連邦の明日を担う魔法学校、緑ゆたかで広々としている。敷地面積ということでなら五院でも最高の環境ではあるまいか。他の院とは違い何しろ4棟も建物があるのだ。

「魔法学校に入るかどうかは、個人の判断にまかされているのです」
 職員室の教師モレノ・トエノを訪ねた。彼には以前、魔法人形「かぞえるくん」を使ったミッションを依頼されたことがある(その108参照)。
「もっとも、エリートクラスに進めるかどうかは、我々の判断によりますが……。すべての子供たちに、魔法の才能があるとは限りませんから」

 そうでしょうな、と私は言った。隣の棟の屋上から、雛鳥のようなかん高い唱和が聞こえてきた。授業が続いている。

「それで……ミッションの内容なのですが」
 モレノ・トエノが、ばつの悪そうに両手を擦り合わせた。ようやく本題に入れそうだ。
「Kiltrogさんは、現在の魔法学校の校長先生を知ってますか」

 どちらの名を言えばいいものか、少し迷った。
「コル・モル博士では?」
「その通り。今は石の区にお住まいです」
 モレノ・トエノが手を叩いた。どうやら正解だったらしい。

「もう聞き及んでいるかもしれませんが、現職の耳の院院長は、セーダル・ゴジャル氏と言いましてな。4年前に就任されまして、学力体力ともに申し分なく、まさに院長にふさわしい人物と、私たち教師も歓迎していたのです。
 それが2年前、突然に姿をくらましましてね。コル・モル博士が復職ということで、一応の決着をみたというわけでして」
 そういえば、と私は思った。セーダル・ゴジャルには、ダボイの奥で会ったことがある(その364参照)。彼は帰れない理由を私に説明したが、なぜウィンダスから逃亡したのかは言及しなかった。

「ところがコル・モル博士は、石の区に閉じこもっておいでで、必要最小限、校長先生の職務を勤められてはおりますが、ここ耳の院に足を運んでは下さらず……。おまけに、これは個人的なことですが、骨工ギルドからけっこう多額の借金をしており、耳の院の予算を使い込んでいる始末……」

 モレノ・トエノは、小さな人差し指を立てて、唇に当てた。
「念のため、ここだけの話にして下さいよ!」
 もちろん、と私は答えた。
「まあ、借金は少しずつ返してくれているので、我々も目をつむっているのですが、コル・モル博士には手を焼いているのです。校長の職務にしても、博士の退職されていたところを、無理に復帰していただいたわけですから、あまり強くは言えません……。しかし、実質的にここ数年間は、校長不在に等しい状況でした。教師一同なんとか力を合わせて頑張ってきましたが、やはり子供たちの環境によろしくない。そこで、ランクの高い冒険者のお力を借りようということになったわけです」
「それで、私は何をすればいいのですか」

「セーダル・ゴジャル氏を連れ帰っていただきたい」
 モレノ・トエノはキッパリと言った。
「現院長に戻っていただけるのが最善です。今のコル・モル博士では、耳の院をよくすることは出来ません」

 セーダル・ゴジャルはダボイにいるはずだ。後は説得作業だが、こればかりは彼と話してみないことにはわからない。
「それで、我々はこんなものを用意しました」
 モレノ・トエノは部屋の隅へ行き、人形をひとつ抱えて戻ってきた。
魔法人形「みつけるくん」です」

 確か前は、「かぞえるくん」ではなかったか。どうも魔法人形はいくつもタイプがあるらしい。モレノ・トエノは、「えい、スイッチオーン」と言いながら、みつけるくんの背中をいじった。そして、赤子を扱うようにそっと、私に手渡してみせる。
「ケヒヒヒヒ!」と人形は、耳障りな声をはなつ。
「オレ ニ マカセロ! キタ ニ イクベシ!」

 またこの人形が、マンドラゴラに目鼻を適当にくっつけたような、不細工な代物なのである。誰が作ったか知らないが、私は製作者の奇っ怪なセンスに圧倒された。それに、どうせならもうちょっと可愛い声で喋ればいいのに。
「みつけるくんは、院長の持っている星月の指輪の力を感知します」
 モレノ・トエノは胸を張った。
「これは以前、コル・モル博士がやんちゃをして、指輪を無くしてしまったときに使われたものでして、能力は折り紙つきです。思いがけないときに喋り出すので、注意して耳を傾けて下さい」
「それはいいのですが……」
 まじまじと見れば見るほど不細工な人形である。私はげえと言いそうになった。
「いったい、誰がこんな人形を作ったのですか」
「コル・モル博士自身ですが……それが何か?」


 耳の院を退出した。人形は置いてきてもよかったが、考えてみれば、院長がまだダボイにいる保証はないわけだ。逃げられてしまったら追跡も不可能になる。依頼主が使えというものを使わない法はない。ただどうせなら、このみつけるくん、もう少し神経にさわらない声で喋ってくれればいいのだが……。

「ケヒヒヒヒ! キタ ニ イクベシ! キタ ニ イクベシ!! 」


(06.05.28)
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